短評:人質

人質 (講談社文庫)人質 (講談社文庫)
チャック ホーガン Chuck Hogan

講談社  1997-11
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内容紹介/Amazonより
 反逆の森に轟く銃声。息づまる人質救出作戦!モンタナ州の辺境で山小屋に立てこもる逃亡犯。一進一退の攻防。遂に惨劇の嵐が巻き起こる!

 モンタナ州の辺境の森に銃声が轟いた。連邦逃亡犯が子供を含む人質を盾に山頂の山小屋に籠城。地元警官、FBI、連邦執行局の特別チームが相次いで集結、一進一退の攻防が続く。交渉、駆け引き、脅し、あらゆる手段で人質奪還をはかるバニッシュ司令官の苦悩は深まる。息詰まる人質救出作戦を描くパニック大作!

  • 上記紹介は小説の内容に沿ってはいるのだが、正確ではない。逃亡犯が自分の子供を含む家族で山小屋に篭城し、それが結果的に人質を取られたも同然の状況になり、強行突入ができない。というのが実際のオープニング概要だ。子供たちは、FBIにとっては人質であると同時に、自ら銃火器を扱う攻撃者でもある。中々面白い設定だと思うのだが、上記及び本書裏表紙あらすじには、無力な人質であるかのような表現しかないのが残念。
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卵をめぐる祖父の戦争

「心配するな、友よ。きみを死なせはしない」
まだ十七だった。愚かだった。だから彼を信じた。

卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))
デイヴィッド・ベニオフ 田口俊

早川書房  2010-08-06
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内容紹介/Amazonより
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた。軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?――戦争の愚かさと、逆境に抗ってたくましく生きる若者たちの友情と冒険を描く、歴史エンターテインメントの傑作

以前、「99999(ナインズ)」で私をいたく感心させた*1デイヴィッド・ベニオフによる……ええっと、これは何?冒険小説?戦争小説?青春小説?ジャンルがなんであれ、これは間違いなく世界中の青少年必読必携の小説である。推奨年齢18歳以上。私は、ドキドキしたり、そわそわしたり、笑っちゃったり、ぞっとしたり、とても忙しく、楽しく、またしみじみと読んだ。細部にはうんことかファックとかオナニーとかが横溢しているが、登場人物の一人が「あんたたちはいつもちんぽとお尻の話ばっかりだね」と言いもするが、それでも若者たちから本書を遠ざけるべきではない。読むべし。★★★★★

*1:自分でこういう書き方を選択しておいてなんだが、何て偉そうな態度なんだろう!私は何?有名評論家か?私に褒められると、作家は嬉しくなってちびっちゃうくらいの大家なのか?ええい、そうじゃないけど、偉そうな態度が好きなんだ。それに、ナインズはほんとーに、ほんとーに良い短編集だった。まことに感心。これからもがんばりたまえ、デイヴィッド。

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強盗こそ、われらが宿命

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)
チャック ホーガン Chuck Hogan

ヴィレッジブックス  2007-09
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強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)
チャック ホーガン Chuck Hogan

ヴィレッジブックス  2007-09
売り上げランキング : 549453

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内容紹介/Amazonより
全米一、銀行強盗発生率の高い街であるボストン郊外のチャールズタウン。ここでは強盗は誇り高き家業だ。そんな街で生まれ育ったダグは、幼なじみを率いて、現金強奪をすることに何の疑問も抱いていなかった。だが、ある銀行襲撃をきっかけに、何かが変わった―銀行の女性支店長クレアに恋をしてしまったらしい。深入りできない苦しい恋に悩みながら、次の襲撃の準備を進めるダグ。一方、FBIは着々とダグたち一味に捜査の手を伸ばしていた。加害者と被害者、追う者と追われる者が、クレアを軸にして出会ったとき…。巧みな人物描写とプロットで読ませる、傑作ミステリー。

来年2月公開予定の映画「ザ・タウン」。間もなく開催される東京国際映画祭のクロージング作品でもある。ベン・アフレック監督第二作目。アメリカでは興行成績が良く、評価も中々とのこと。

主演は、監督兼任のアフレック。共演者の中で、私が一番注目するのは、ダグのかつての恋人を演じるブレイク・ライブリー。「旅するジーンズ」シリーズで、ブリジットを演じた彼女が、難しい役をどのように扱うのかに興味がある。

その原作が、本書「強盗こそ、われらが宿命」である。

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短評:カーデュラ探偵社

カーデュラ探偵社 (河出文庫)カーデュラ探偵社 (河出文庫)
ジャック・リッチー 駒月 雅子

河出書房新社  2010-09-03
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内容紹介/Amazonより
超人的な力と鋭い頭脳で難事件を解決する黒服の私立探偵。ただし営業時間は夜間のみ。その正体は―短篇の名手リッチーが生んだユニークな名探偵カーデュラ・シリーズを全作収録した世界初の完全版“カーデュラの事件簿”。さらに「いい殺し屋を雇うなら」「さかさまの世界」など5篇を新訳で贈る。

  • 文庫化された「クライム・マシン」に、私の好きなカーデュラ探偵社シリーズが入っていなかったので調べたところ、このシリーズだけを別にまとめた文庫が出るというので、楽しみに待っていた。カーデュラものの未訳作品が入っているのかと思っていたのだが、新訳5篇は全てノン・シリーズ物だった。ちょっと残念。
  • と、いうことで、カーデュラものについて改めてコメントはない。もう、ジャックったら、いつだってサイコー。
  • しかし、新訳の5篇もサイコーで気に入った、とは言えない。
  • 「無痛抜歯法」どんでん返しはあるが、スッキリしない。
  • 「いい殺し屋を雇うなら」長過ぎる。
  • 「くずかご」うまい。けれど、好きではない。
  • 「さかさまの世界」凝っている。けれど、好きではない。
  • 「トニーのために歌おう」冷酷になれない弁護士エイレングラフ*1の物語かと思ったら、リッチー作品に時折現れる「幸福な閉塞」のような小説だった。味わい深いが、傑作とは言えない。
  • 文句は言ったが、カーデュラものの集大成は世界初とのこと。それだけで、私には充分評価に値する。ありがとう、河出さん。

*1:ローレンス・ブロックの短編シリーズに登場する、依頼人を必ず無罪にする弁護士。

変な学術研究1

最近、こんなニュースを見た。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

http://megalodon.jp/2010-1010-1439-52/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

ルワンダでブタにヒップホップ、生産増で貧困対策にも
 [NYIRANGARAMA(ルワンダ) 7日 ロイター] ルワンダ北部の農場で、ブタにヒップホップやレゲエ、R&Bなどを聞かせるという新たな試みが、生産増加などの効果を挙げている。

 農場の責任者ジェラード・シナ氏は、「人間は音楽が好きだから、動物にも聞かせてみようと思った」と説明。「動物が気に入る音楽を選ばなければならない」と語った。 

 同氏によると、このアイデアはベルギーで6年前に思い付いたもので、劇的な成果がみられている。音楽を聞かせて育てたブタは、音楽を聞かせなかったブタに比べ、2倍も子ブタを産んでおり、体重の増え方や肉質も良いという。


これを読んで、当然のようにこちらを思い出した。

 それにしても、動物実験や動物行動学をすべて人間に応用できると信じている素朴な人が多いのには驚かされます。牛にモーツァルトの曲を聞かせたら乳の出が良くなったという話を聞いて、社内にモーツァルトの曲を流せば社員がたくさん仕事をするようになるはずだ、と考え実行した社長さんがいたそうです。その会社のOLのみなさんは、「なんでこのごろ、乳が張って痛いんだろう?」と悩んでいるかもしれません。

パオロ・マッツァリーノ「続 反社会学講座」P144

続・反社会学講座 (ちくま文庫)続・反社会学講座 (ちくま文庫)
パオロマッツァリーノ

筑摩書房  2009-04-08
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短評:答えられそうで答えられない語源

答えられそうで答えられない語源 知っているようで知らない日本語クイズ答えられそうで答えられない語源 知っているようで知らない日本語クイズ
出口 宗和

二見書房  2010-03-09
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  • 不必要な「若者いじめ」や、誰かを揶揄する表現が不愉快。

挨拶も態度も、いっている内容さえも「むちゃくちゃ」。若者を非難するつもりはないが、いつの時代もよく聞く話だ。

昨今は年だけで「ロートル」とはいわない。なにぶん今の若者には役立たずが多すぎる。

スーパーの特売、オバハンが三々五々集まってきた。この群がる習性。なんとも恐ろしい光景ですよ。

  • 面白いものもあるのに、こういった揶揄に行き当たってげんなりするのが残念。そして、内容の正確さ、信憑性を当てにしてはならない。なにせ、ご本人が書いている。「本書は辞書、辞典の類ではない。権威もなければ、見識も伴わない。単なる『ヨタ話』である。新橋、大阪京橋の飲み屋で、オダを挙げるオッサンの会話を収録したと思っていただいて十分だ。」

短評:心から愛するただひとりの人

現代短篇の名手たち6 心から愛するただひとりの人(ハヤカワ・ミステリ文庫)現代短篇の名手たち6 心から愛するただひとりの人(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ローラ・リップマン 吉澤康子・他

早川書房  2009-11-30
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著者について/Amazonより
シリーズ・キャラクターのテス・モナハンと同様にボルチモア育ちの彼女は、その地で20年ほど記者生活を続けた後に、専業作家へ転身した。1997年に第2作『チャーム・シティ』でアメリカ探偵作家クラブ賞とシェイマス賞を受賞し、その後もアンソニー賞、アガサ賞、シェイマス賞、バリー賞、ロマンティック・タイムズ賞など数多くの賞を受けている。

  • 不思議な四部構成の短編集。第一部「野放図な女たち」(「行動的な」女性たちの物語)、第二部「ほかの街。自分の街ではなく」(ボルチモア以外を舞台とする)、第三部「わたしの産んだ子がボルチモアの街を歩く」(テス・モナハンものをメインに据えた構成)、第四部「女を怒らせると」(同名の書き下ろし)。含まれる作品のみならず、この構成が全体に良い効果をもたらしている。
  • 知らない作家、と思い込んでいたが、本書冒頭の作品(クラック・コカイン・ダイエット)を読んだことがあった。中々興味深い作品だった。

ベスト・アメリカン・ミステリ クラック・コカイン・ダイエット (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1807)ベスト・アメリカン・ミステリ クラック・コカイン・ダイエット (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1807)
エド・マクベイン エルモア・レナード ジェフリー・ディーヴァー スコット・トゥロー

早川書房  2007-12-07
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*1

*1:余談ながら、このアンソロジーのディーヴァー作品は最高。次の短編集が楽しみ。翻訳を待つ。

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