大鴉の啼く冬

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大鴉の啼く冬 (創元推理文庫 M ク 13-1)
アン・クリーヴス 玉木 亨
東京創元社 2007-07
評価

by G-Tools , 2007/12/19


出版社からの紹介
CWA最優秀長編賞受賞作】
新年を迎えたシェトランド島。孤独な老人マグナスを深夜に訪れた黒髪の少女キャサリンは、4日後の朝、大鴉の舞い飛ぶ雪原で死んでいた。真っ赤なマフラーで首を絞められて。住人の誰もが顔見知りの小さな町で、誰が、なぜ彼女を殺したのか? 8年前の少女失踪事件との奇妙な共通項とは? ペレス警部の前に浮かびあがる、悲しき真実。現代英国本格派の旗手が、緻密な伏線と大胆なトリックで読者に挑戦する! 解説=川出正樹

  • 英国推理作家協会(CWA)によるゴールド・ダガー賞は、名称を「新たにスポンサーとなったプライベート・バンク、ダンカン・ローリーの名前を冠したダンカン・ローリー・ダガー」に変更したそうな(月刊 海外ミステリ通信2006年7月号 号外より)。冠商売も多岐に渡るものだ。私も資産家になったらやろう。「うらら賞」とか。海外でもやろう。「URARA the Great Cat Award」略してUGCAとか。そしたらかん子さんがヤキモチを焼くかもしれないから、かん子さんには名前を付けたホテルでも立ててやろう。コンラッドヒルトンの隣にでも。どんだけ金持ちなんだ。
  • 同賞「初」受賞作となった本書は、本邦初訳の著者による、実に丁寧に作られたミステリ。
  • 舞台はイギリス、シェトランド島。現場こそ架空の集落レイヴンズウィックとなっているが、その他の地名・地理、風俗は実在のものらしい。知らない町を訪ねてみたい、どこか遠くへ行った気分になりたい私は、見知らぬ地シェトランドにのめりこんでしまった。実際に行ったら退屈なのかもしれないが(登場人物の一人も観光客は何をしに来るのかと思っている)、この小説を読んでいると、このはるかな荒涼とした場所に興味が湧くのである。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E8%AB%B8%E5%B3%B6
http://www.visitshetland.com/

  • 拡大解釈版「嵐の山荘」的状況で起こる殺人事件と、その捜査及び解決が綴られる。謎の過去を持つ老人、被害者の友人、第一発見者の女性、探偵役となる警部の四つの視点で語られるストーリー。このキャラクタ設定が実に素晴らしい。閉じこもり、孤独な生活を送る老人には、忌まわしい過去の事件とのつながりがある。少女は、思春期にありがちな感情の嵐をもてあましつつ、自らを冷静に観察する。シングルマザーの女性は、自ら選んだ孤独と対峙しつつ、寂しさに押し潰されそうになる。生まれ育った場所にもかかわらず孤立感を拭い切れない男は、様々な願望を胸に秘めたまま事件の謎を追う。少女のコンプレックスと、母親の後悔と希望に強い共感を覚えた。更に、捜査を進める中で見えてくる被害者の少女の野心や残酷さの描写も興味深い。
  • 北国の果てで生まれ育ちながら地中海的風貌を具える警部という設定も面白い。「マクベス巡査」の「マクロペス一家」を思い出した。(「スペイン系だな?名前は?」「マクロペス」「え?」「ご先祖がスペイン艦隊の生き残りでね、名前をスコットランド風に変えたんだ」というエピソードがある/第2シーズン「NO MAN IS ISLAND」名作です。)
  • 433ページ中、421ページまでまじで犯人が分からなかった。しかし、そうと分かると全てが腑に落ちる技巧的構成に感心。強引さはない。(やたら思わせぶりなシーンは多いが、それも閉鎖的な島の雰囲気やそれぞれの人の暗部を垣間見せて効果的。)
  • 私は、特に選んだつもりもないのにシングルマザーの出てくる小説をよく読んでるなー。何だろう、ドラマチックな設定として簡単なのかな?しかし、本作のフランは、その中でも最も共感した一人。身につまされるところが多かった。
  • タイトルを「大鴉の啼く夜」と記憶違いをしていたのだが、私だけではなかったらしい。なんと、東京創元社のメールマガジンでも間違って書かれている。笑うしかない。何で「夜」になっちゃうのかなあ?
  • シェトランド島を舞台にした3部作の一作目とのことなので、続編の翻訳を心待ちにしている。ハデではないが、実によくできた小説である。あまねくオススメ。