短評:おサケについてのまじめな話
アルコール依存症は患者がかわいがられない病気です。
おそろしい、にくらしい病気でした。
私は彼を憎んで 逃げまわるのにせいいっぱいでした。
そういう病気でした。
でも、病気なのだから 専門の医師が対応しなければいけません。
家族だけでは戦えません。私はもっぺん生まれかわっても
やっぱり鴨ちゃんと一緒になってると思う。
そいでやっぱり鴨ちゃんは依存症になって
二人は大ごとになるんだろうけど、
でも今の私には知識があるから。
正しい治療法を知ってるから。
大丈夫。
もう憎まない。
西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気 西原 理恵子 小学館 2010-07-01 売り上げランキング : 1617 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
内容紹介/Amazonより
アルコール依存症は、軽症のうちほど回復しやすい病気です。ところが病気の症状や治療について、また、重症化したときのおそろしさなど、一般的な知識や理解が十分だとは言えません。
本書は、元夫のアルコール依存症に悩んだ漫画家・西原理恵子さんと、青年期に自身が若年性アルコール依存症になった経験をもつ月乃光司さんの二人が、それぞれ家族と当事者という立場から、この病気について語りあいます。かかってからでは治療が困難なアルコール依存症について、多方面から解説した、わかりやすくためになるガイダンスです。
巻頭漫画、巻末には相談先リスト入り。編集担当者からのおすすめ情報
★漫画家西原理恵子さんの元夫鴨志田穣氏(故人)が最期に遺した小説『酔いがさめたら、うちに帰ろう』(スターツ出版)が映画化され、2010年秋公開されます。本書と表裏をなす内容ですので、ぜひおすすめです。
私は下戸である。アルコール飲料の味も、基本的には好きではない。ビールは苦いし*1、ウィスキーなども美味しいと思えない。フルーツなどの甘味を使ったものは時に美味しく飲めるけれど、それならジュース飲んでりゃいいのである。それに、グラス一杯で顔が真っ赤になり、白ワインを飲むと何故か膝から下が猛烈に痛くなるというオプションもついてくる。とことん下戸だ。
でも、飲めるようになりたい。今年、日本酒と焼酎*2の一部を「美味しい!」と思えて嬉しかった。相変わらず顔、と言わず全身真っ赤なのだが。
そんな憧れのせいか、酒飲みの話をよく読む。そうと意識しなくても、アルコール依存症患者が主人公の小説にまみえる機会が多い。最近だと、「強盗こそ我らが宿命」、「人質」のホーガン作品の主人公がアルコールと闘っていた。定番作品としては、中島らもの「今夜、すべてのバーで」、ローレンス・ブロックの「マッド・スカダー」シリーズ、ウォーレン・マーフィーの「トレース」シリーズがある。
しかし、本書はそれらフィクションを超える迫力で、アルコール依存症の残酷さを提示している。
第一章の西原理恵子による「家族の記録」では、依存症患者を家族に持つ過酷さが描かれる。偏見や誤解について、辛い経験をした家族の立場から書いてあり、私にとっては目から鱗の落ちる思いがした。また、かつて自身が依存症だった月乃氏による第二章の体験談は、おぞましくも悲しく、忘れがたい。第三章の対談は、分かりやすいまとめのようで、構成の妙を称えたい。
以下、印象的な箇所を抜き書きして、感想に変える。
月乃
日本のアルコール依存症者は推計80万人、依存症者の可能性がある人は約440万人。それから、一日平均ビール中びん3本以上飲んでいる多量飲酒者になると、約860万人だそうです。それなのに、病気についてよく知られていないし、誤解も多い。
西原
それは患者や予備軍の数ですよね。家族のことも考えたら、背後にはその何倍もの人が苦しめられているんですよね。
アルコール依存症は、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなる病気です。つまり、本人はやめたい、飲みたくないと思っているのに、やめられなくなるところが怖いんです。
こうしたことは、わたしも、アルコール依存症が「病気」なんだ、病気だから「治療」が必要なんだ、と知って、後から勉強してわかったことなんです。だけど、渦中にあるときは、何がなんだか、立ち止まって考えることができませんでした。わたしも同じように飲んでいたのだから、彼だけが病気といわれても納得できるわけがありません。しかも鴨ちゃんは、きちんとわかって飲んでいるように見えましたから。
酔っ払って暴れていたときは、「これが本性だったのか」とあさましく思ったこともありましたが、そうではなく、彼の本性はやさしさと勤勉さでした。お酒の病気のせいで、言動がゆがめられていたということを、治った彼を見て初めて理解できたのです。