短評:帰りたくないー少女沖縄連れ去り事件

帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件 (新潮文庫)帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件 (新潮文庫)
河合 香織

新潮社 2010-05-28
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内容紹介/Amazonより
家には帰りたくない―47歳の男に連れ回され、沖縄で保護された10歳の少女はそう言った。親子のように振る舞い、時に少女が主導権を握っているかのように見えた二人の間に、一体何があったのか。取材を重ねるにつれ、少女の奔放な言動、男が抱える欺瞞、そして歪んだ真相が明らかになる。孤独に怯え、欲望に翻弄される人間の姿を浮き彫りにするノンフィクション。

  • 親の悪夢とでも言うべき事件のルポルタージュ。と思いながら読み進める内に、ストーリーが「親」どころか「家族」に対する呪いのように感じられて怖ろしくなった。「パラノーマル・アクティビティ」の予告を見ても、さっぱり怖くなれない私だが、この本は怖い。
  • (自分が優位に立った上で)大人の注意・関心を引くためなら、何でもする少女。それに従うようにしつつ、実は自らのタナトス*1に少女を巻き込む男。全てを捨てて逃げ続ける母親。いったい、どこまで遡れば、彼女たち全員が幸福になれただろう。
  • 事件の表層から深部へと分け入る構成が見事。文庫化に際して加えられた「それからの二人」も、その構成を崩していないのが、運命とすら思われて、なお恐ろしい*2

*1:フロイトの用語。攻撃・自己破壊に向かう死の本能を指す。/大辞林より

*2:単行本刊行が平成19年12月。本書の発行は平成22年6月。