歓喜の島

歓喜の島 (角川文庫)

歓喜の島 (角川文庫)

 時は1958年の冬。始まりはラブストーリーだ。スパイ稼業に嫌気が差したウォルターはCIAを退職、恋人のジャズシンガー、アンとともに自分の島―マンハッタン―に帰る。真冬のニューヨークで追いかけっこ、馬車でのセントラルパーク散策。「あなたって、ほんとにロマンチック。キスして、おばかさん。」でも、男は毎夜悪夢にうなされる。自分が放り出してきた過去が、彼の夢をさいなむのだ。
 中盤はエスピオナージ。ウォルターはJFKを想起させるある若手政治家のスキャンダルに巻き込まれ、その中である女が死ぬ。それによって物語は大きく動き始め、彼は置いてきたはずの過去に対峙することとなる。秘密が明かされ、彼は決断を迫られる。
 終局はウィンズロウの真骨頂だ。397ページから始まる緊張感は、焦りや迷走すら名人の筆にかかれば快楽なのだということを教えてくれる。
 孤独な主人公の必死の鬼ごっこ。逃げるのは一人の元スパイ。協力者は気のいいドアマン、古馴染みのやくざ、そしてアル中の小説家。追うのはフーバー率いるFBI、殺人事件を追う警察、スキャンダルを恐れる政治家、そしてもう一つ謎の組織……。
 危険な駆引によって彼が守ろうとしているのは何なのか?クリスマスから大晦日までの光り輝くニューヨークの描写とともに、読者はその幕に溜息を漏らすことだろう。ウィンズロウにハズレなし(今のところは)。
 ★★★★☆。★一個減の理由は、私のアメフトへの無関心さによるもの。中盤の重要なシーンでの長く続く描写に退屈してしまったのだ。「小説への愛が薄いんじゃなくて、アメフトへの無知のほうが濃い」。