短評:酔いがさめたら、うちに帰ろう。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。 (講談社文庫)酔いがさめたら、うちに帰ろう。 (講談社文庫)
鴨志田 穣

講談社 2010-07-15
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アルコール依存症で離婚。10回の吐血。再飲酒。ついにアルコール病棟に入院することになった、元戦場カメラマンの「僕」。そこで出会った個性的な面々との生活が、僕を変えた。うちに帰りたい―。依存症を克服し、愛する元妻、子供たちとの時間を取り戻したが、そこには悲しい現実が…。笑って泣ける私小説

  • 「おサケについてのまじめな話」を読んだので、西原理恵子の元夫が書いたこちらも読んでみた。
  • 依存症患者本人が、体験を基に書いているだけあって、実際を知らぬ私としてもリアルに感じる描写の迫力がすごい。それに、面白い。

「内臓も血液データも、よく歩いていられるなと、不思議になるくらいボロボロです。」
……
手はぶるぶると震えているが、一杯、二杯とカップ酒を一気にあおると、指の震えも"ピタリ"と止まる。
それが毎朝、一番最初にする行為だった。
……
(入院した病棟で「火曜日はカレーの日」なのに、一人だけ全がゆで)
「あの、僕、カレーじゃないんですか」
「はい…。先生の指示が出ているものですから」
『カレー食わせろ』
と怒鳴りたかったが、あまりにも大人げないので、ここはひとつ我慢した。
……
精神科医との面談で)
「話は長くなるんですが…」
「どうぞ、ゆっくり」
「九州の鹿児島を取材旅行していたときに、妻から電話がありまして」
「それで」
「妻が電話口で、決意を感じさせる声で、『しばらく帰ってこないで』って言ったんです」
「うーん、こまったねえ」
「あの、先生、ちょっといいですか?」
「何ですか」
みのもんたに電話しているような気分になっているんですが」
「えっ、それは、ワハハッ。失礼しました。ちゃんと精神科医として聞いていますので」
……

  • また、依存症がもたらす、さまざまな症状の様子もおそろしく、*1青少年の課題図書にでもして、アルコールの脅威について広く教育するべきではないかと思った。何せ、病名や症状が出てくる出てくる。食道静脈瘤破裂、幻覚、譫妄、肝硬変、肺気胸(肺に穴が空いて、空気がもれている病気)、それに骨折。デカダンは命がけなのだ。やらない方がいい。
  • 本作は映画化されている。2010年12月4日公開予定。主演は浅野忠信永作博美

*1:飲む人は何をして飲むだろうし、これを読んで「こんな状態からも脱出できるんだ」「家族は優しくしてくれるんだ」と勘違いするかもしれないが