高校生が選ぶ「大学に入ったら 読みたい本100選」

私は、長い間「人間とは本を読む葦である」と思い込んでいた。
幼児の頃は寝る前に本を読んでもらい、家族で図書館に行き、姉妹と本を交換した。友人たちとは、シリーズものの登場人物について語り合った(私はヤン派、友人はラインハルト派だった)。そういう状況をごく普通のことだと信じていた。
長じるにつれて、「どうも自分は世に言う『読書家』らしい」と気付いたものの、平均よりもやや量が多い程度だろうとしか思わなかった。別に高尚な文学を嗜むわけでもない。娯楽小説万歳!というタイプだし。
だから、普段ページを繰っている姿を見ないこの人やあの人だって、家に帰ってのんびりしたら読み止しの本を開いたり、週末に書店で次に読む本を探したりするのだと思い込んでいたのだ。それをしないのは教養のない証だとも。
認識を改めたのは、五年ほど前のことである。
勤務先に来ていた派遣さんと仲良くなった。大変頭のいい人で、会話の中で彼女が見せる思いもかけぬ反応を見るのがとても好きだった。さて、その頃競馬を始めたこの人が、ある時コンビニで競馬雑誌を買ってきて言った。「本読むのなんて、学生の時以来だわあ」。
世の中には本を読まない人がいるのだ。私が読書を自然な習慣と信じ込んでいたように、それを特殊なことだと思う人がいるのだ。そして、読書の習慣がないからといって教養に欠けるとは限らない。現に、久し振りに読む「本」が「ギャロップ」だった彼女は、非常に知性豊かで行動力のある女性だったのだから。遠く故郷を離れ、外国を多く旅し、語学に堪能。片や、私はと言えば、知識は確かに多いかもしれないが、そのほとんどがページをめくる手で得たものであって、足で歩き回り、体で覚えたものではない。
私は自分の盲信と傲慢を深く恥じた。ブックスマートはストリートスマートには敵わない。


しかし……そんな反省以降の私でも、以前のペダントリを引っ張り出してきたくなることがある。声で伝える世界では、決して決して言いはせぬ。だから今だけ言わせておくれ。


なんじゃこのアンケートは!
お前らもっと本を読め!
http://www.lib.saga-u.ac.jp/100home.html

佐賀大学附属図書館は、「高校生が選ぶ『大学に入ったら 読みたい本100選』」という企画を実施しました。投票人数は3,886人、投票冊数は7,086冊となり、多数の方々に参加していただきました。開票の結果、上位100冊は下記のとおり決定しました。なお、佐賀大学附属図書館では上位100冊を蔵書として備えます。


順位・得票数・書名・著者
1 483 ハリー・ポッター J.K.ローリング
2 351 世界の中心で、愛をさけぶ 片山恭一
3 187 バカの壁 養老孟司
4 126 Deep Love Yoshi
5 114 “It”(それ)と呼ばれた子 デイブ・ペルザー
6 109 Good Luck アレックス・ロビラ/フェルナンド・トリアス・デ・ベス
7 104 蹴りたい背中 綿矢りさ
8 79 蛇にピアス 金原ひとみ
9 76 ダレン・シャン ダレン・シャン
10 64 解夏 さだまさし
……



ここで言うのは量ではない。量を競っても何にもならないし、この百冊の中で私が読んだものだって二十三冊にしかならない。
私が言いたいのは、これじゃあ書店の年間売り上げベスト10とほぼ変わらないじゃないか、ということなのだ。ベストセラーは読むに値しない、という意味でもない。しかし、これなら何も「大学に入」らなくても読める。ベストセラーなのだ。巷間にあふれている、どこででも入手できる、いつでも読める本だ。難易度も高くはあるまい。
一番濃厚な可能性は、アンケートに答える側の多くが、この曖昧な設問に困り、「今までに読んだもの」(教科書に出ている作品が多い・「羅生門」や「鼻」だけを読みたいとはどういう了見だ)、「名前を聞いたことがあるもの」(ベストセラー)を答えているだけなのではないかということだ。「まだ読んでいないけれど読みたいもの」を挙げた者もいるだろう……それが「大学に入ったら」という条件に合致していたかはさておき。興味がないなら、無理にアンケートに答えんでもいいのになあ。
それから、大学側も「上位100冊を蔵書として備えます」というのはちょっと……「リアル鬼ごっこ」を置くんですかあ?ということは、これは人気調査だったのか
学生に媚びる必要なんてないのになあ。大学図書館の充実度は、書店のそれとは一線を画すべきだろう。


ともあれ、「史記」と「屍鬼」が上下に並んでいたのには笑った。