ギリシャの薔薇

昨夜、ミステリチャンネルの「名探偵ポアロ」で、「砂に書かれた三角形」を見ていた。原題は"TRIANGLES at RHODES"。「ロードス島の三角形」である。(ヴァカンスに出掛けたポアロが、現地で殺人事件に遭遇する話。)
それを見て初めて気付いたのだが、近鉄バッファローズに在籍していた(現在は巨人)タフィ・ローズ(本名カール・ローズ)のラストネームは、このロードス島の綴りと同じRhodesなのだ。

彼の近鉄時代、同時期に横浜ベイスターズにいたローズはそのものずばり薔薇のROSE(しかも、Robert Richard Rose。RRR!)なのだが、タフィの方は随分奇妙な綴りだなあと思ったため、印象に残っていた。

アメリカ出身の野球選手の名前と、ギリシャ領の島。興味を持って調べる内に、色々と面白いことが分かってきた。


まず、タフィの出身はカリフォルニア州オークランド。残念ながら、ギリシャではない。
しかし、実はアメリカにもロードス島があるのだ。しかも、州名にまで入っている。さあ、どこでしょう?
答は、「ロードアイランド州」。独立十三州の一つにして、アメリカ最小の州である。人口も面積も日本の佐賀県並の小ささ。
1524年にこの地を探検したイタリア人探検家ベラザーノが、現在のロードアイランド島(Rhode Island)を発見(と言うのもヘンだが)。帰国してから、その島がギリシャロードス島(Rhodes Island)に形や大きさが似ていると記録を残した。
1630年代、最古の入植地マサチューセッツ州では、清教徒イギリス国教会)による厳格な政治が行われていた。これに対し、ロジャー・ウィリアムスという牧師が、信教の自由及び、土地の本来の所有権がネイティブアメリカンにあるという主張をしたため、ボストンの植民地政府によって追放された。彼は支持者とともに南下、苦労の末、ネイティブアメリカンから土地を購入して定住した。これは神の導きによるものであるとして、現在は州都となっているこの地は“Providence(神の導き)”と名付けられた。1643年には本国(イギリス)の議会から、単独の植民地(Plantation)としての認定を受けた。
州の正式名称は、この二つのエピソードからRhode Island and Providence Plantationsとなっている。
成り立ちからして反抗的だったためか、独立の気風に満ちた歴史を見るだけで面白い。
1652年、最初に奴隷を禁止する法律を制定。また、クエーカー教徒、ユダヤ人、カトリック教徒などを受け入れ、完全な信教の自由を保障する唯一の植民地として発展した。さらに、中央集権化に反対して合衆国憲法制定会議をボイコットしたり、禁酒法を批准せずに酒類の製造・販売を行ったりと、何やらかなり味のある州である。
なお、「州の花がロードデンドロン(Rhododendron)だったりしないかな」とわくわくして調べたが、残念ながらスミレであった。ちなみに、ロードデンドロンはウェストバージニア州の花だった。

http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/BotanicalGarden.html


本家ロードス島は、エーゲ海南東部、トルコ南西岸近くにあるドデカニソス諸島(スゴイ名前)で最大の島。古代ギリシア語で「ロドス(Rodos)」とも呼ぶ。

ギリシャ神話では、ゼウスが神々に地上の国々を分け与えた時、その場にいなかったヘリオス(太陽の御者なので勤務中だった)にはどの土地も与えられなかったため、彼のため新造された島とされている。世界の七不思議の一つとして島の名を有名にした、かつてこの島にあり、また謎のうちに失われた「ロードス島の巨人像」は、ヘリオス像だったとも伝えられている。
紀元前1500年ころからギリシア人が居住し、紀元前408にロードス市が建設される。名前の由来は、太陽神ヘリオスの恋人「ロドス」らしい。聖ヨハネ騎士団マルタ騎士団として知られる組織が、マルタ島の前に拠点を構え「ロードス騎士団」と名乗っていた時期もある。


さて、最初の方で横浜のローズと近鉄のローズは綴りも意味も違う、と述べた。しかし、調べる内にこの二つがどんどん近寄ってきたのである。
そもそも、ギリシャロードス島は、観光会社の惹句によれば「薔薇の島」だという。だが、実際に彼の地を訪れた人が地元ガイドに尋ねたところ「ヨーロッパ人がロードスをローズと聞き間違えたために、そのような話が広まってしまったが、島にはバラは咲いていないと言う」。
そのため、調査中に「ローズ(Rose)とは「赤」という古代ラテン語や、エーゲ海に浮かぶロードス島(Rhodes)の古代ギリシャ語に由来するともいわれる」という記述を見ても、「うんうん、これは誤解なんだよね〜。」と勝手に決めていた。
ところが、このROSEはRHODESから来たという説、web上で非常に多く見られるのである。
こういった説の中には、アメリカのRhode Islandはオランダ語の「赤い(土の)島」から来ているというものもある。イタリア語のROSSO(赤)を引き合いに出すまでもない。赤といえば薔薇なのだ。如何に多くの色あれど、ばら色と言えば黄色や白ではありえない。「Roses are red. Violets are blue. Sugar is sweet. And so are you.」という訳だ。
Genius英和辭典によると、Rhodesとroseは「薔薇」という同じ意味の單語です。〜Rhodes[roudz]は本來、ギリシャ語で「薔薇」の意味で、現代ギリシャ語ではRodhosです。一方、rose[rouz]は、ラテン語rosaからの樣です。」と断言されている方もいる。(手持ちの辞書総動員で調べたが、結局裏は取れず。)
確認は取れない。でも、何だかロマンがある。現実のロードス島に咲かずとも、言葉の世界では大輪の薔薇がエーゲ海を背後に咲き誇っているのだ。そして、かつての日本球界でも、不思議な縁が二人のローズをセパに分けていた……のかもしれない。(男同士で薔薇の花咲くとか言うと、別の世界に足が向かいそうではあるが。)


ところで、タフィと同姓の有名人に、セシル・ジョン・ローズ(Cecil John Rhodes、1853-1902)がいる。
映画館のCMでおなじみ、ダイヤモンドのデ・ヴィアスを19世紀末に創設。南アフリカ帝国主義政策を積極的に進め、1899年にケープ植民地首相となる。1895年に中央アフリカを征服し、その地を自分の名にちなみ「Rhodesia(ローデシア)」と名付けた。
そういやあ、世界史の授業で習ったなあ……と、何時間も調べ物をした挙句、しみじみとセーラー服の頃を思い出したりもする31歳の冬なのだった。