輝く断片



私には月に重力があるのを知らなかった前科がある。
そんな人間であるからして、当然のようにSFにも弱い。本書の作者のことも全く知らなかった。実を言うと、読み終えてあとがきを読むまで、最近出て来た新人作家だと思っていたのだ。「新潮社クレストブックス」に取り上げられるような、ブンガクの香り豊かな若い才能……と信じ込んでいた。
とんでもない。シオドア・スタージョン、1918-85。なんともはや、ラスカルと同じ年の生まれである。大正の人である。そして、SFファンには良く知られた大家だという。
本短編集に収録された8作品は1940〜50年代に発表されたものばかりだ。そう知れば、なるほど作中の時代設定はクラッシックなものばかりだった。ラジオは真空管だし、電子メールも存在しない。だが、古びないものもまたあるのだということを教えてもくれる。憎悪、恐怖、固執……そして愛情。平凡な人間の感情が、思いもかけぬ方向へと物語を導き、ある話では奇妙な居心地のよさに落ち着き、またある話では背筋が寒くなるようなオチに辿り着く。
8作品の中では、「取り替え子」が最も好きだ。ある意味、唯一の幸せなラストシーンを迎えると言えるかもしれない。それから、冗長な前半に耐えてからは坂を転げ落ちるように興味深くなる「君微笑めば」も中々だった。
しかし、全体的に冗長さを感じる作品が多く、総合評価は★★★☆☆あたり。畳み掛けるような描写で緊迫感を重ねる手法は秀逸なのだが、ちょっと今の私にはそれがくどく感じられるのだ。
でも、妙に魅力的な作風に魅せられた。本作の前に出た短編集にも手を出そうと思う。