好きにしてください



 先日、家人の両親宅に「振り込め詐欺」の電話があった。
 午前中に掛かってきたその電話の主は、自らを「鉄道警察」と名乗り、「息子さんが新宿駅逮捕された」と告げたらしい。それを聞いた家人の父は、まず事件発生の時間を確認した。相手が「朝の8時半ごろ」と言ったため、父は「ありえん」と詐欺であることを確信。何故なら、息子がそんな早い時間(!)に新宿なんぞにいる訳がない。(フレックス勤務の家人が家を出るのは、早くても9時半。)
 そのあたりを突っ込んでいると、相手は無駄と悟ったのか、途中で電話を切ったらしい。父は、「念のため」家人の携帯に電話をしたが、つながらない(ちょうど地下鉄に乗っていたのだ)。そこで、我が家に連絡をしてきた。


「ムスコいるかな?」
「いえ、もう出掛けました」
「さっきこういう電話があったんだけど」
「その時間には、まだ布団にしがみついてましたね」
「やっぱり詐欺だな。ところで……かん子は元気?」
 ムスコより孫である。


 帰宅後の家人と、この話をサカナに少々盛り上がった。その結果、以下のことを取り決めた。
・チカンはしない(当たり前だ)。
・万が一交通事故などがあったとしても、その際の電話連絡は必ず本人がする。
・同じような電話があったら、「示談の必要はない。逮捕して、煮るなり焼くなり好きにしてください」と言う。
 鬼のように冷血な妻を演じるのが楽しみである。「チカン?いつかやると思ってました。がっちり逮捕して、ばっちり前科を付けてやってください」とか言っちゃうよ。


 それにしても、こういった詐欺に引っ掛かってしまう心理とはどういったものなのだろうか。ニュースを見ると、ほぼ毎日のようにこの手の詐欺事件が報じられている。どの記事を読んでも、「何故こんなものに騙されるのか?」と不思議でならない。
 教員である娘が生徒に怪我をさせたから示談金を振り込め、と言われて300万円を振り込む父。大至急必要だから、と「息子」に頼まれて大金を振り込み、「足りないからもう一度」と言われて計200万円近くを出してしまう老母。愛ゆえに騙されるのだろうが、愛では真贋を見極めることはできないようだ。
 有料サイトの請求に、「心当たりがあったので」2500万円を支払う40代男性。通信教育の費用として、1億4500万円を振り込んだ30代男性。ここまで来ると、実は手の込んだ税金逃れとかじゃないのか?と陳腐な想像をしてしまうほど理解できない。
 「私は大丈夫」という慢心こそが危険だというが、こんな話を聞くたびに理解に苦しむ私は、やっぱり大丈夫だと思う。違う種類の詐欺には引っ掛かるかもしれないけどね。ええっと、例えば結婚詐欺とか。