趣味は読書。

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趣味は読書。
斎藤 美奈子
筑摩書房 2007-04
評価

by G-Tools , 2007/05/13

【商品の説明・内容(「BOOK」データベースより)】
ベストセラーなのに、読んでいる人が周りにほとんどいないのはなぜか?今まで誰もが気づきながら口にしなかった出版界最大の謎に、気鋭の文芸評論家が挑む。

去年のベストセラーリストを見てみる。私が読んだ本は、ページ全体70冊(重複あり)の内、「容疑者Xの献身」と「名もなき毒」の2冊であった。私は、実用書・コミックを含めると、一年に100冊近く本を読む。それでも、このリストの中の2冊しか読んだことがない。身近でよく本を読む人たちを見ても、リストに入らない本ばかり読んでいるようだ。いったい誰が「国家の品格」や「東京タワー」を読んでいるんだろう?
本書は、そんな風に「ベストセラーといわれている本を読んでいる人が私の周囲にほとんどいない」ことに気付いた著者が、「時間とお金を割いてまで読みたくない」みなさまにかわってベストセラーを読んで報告する、という企画で始まった。「100万人が読んでいる本を覗いてみよう」ということで、連載時のタイトルは「百万人の読書」。
著者は前書きに当たる「本、ないしは読書する人について」で、読書人の「ベストセラー軽視」について触れている。未読のくせに、「読んでないけど、あれはひどい」「読むに値しない」と、評価を勝手に決めてかかる。イヤミな態度である。自らも含めた「邪悪な読者」が読もうとしない、その本を買ったり読んだりしている100万人の人々とは誰なのか?多くの書評・論評は、「ベストセラーの読者は日ごろ本など読まない『愚かな大衆』である」という見地に立つ。しかし、著者は連載を進める内に、「ベストセラーとは『不特定多数』が読む本だと一般には考えられている……(けれども、実際には)読んでいるのは『特定の少数者』なんじゃないのか」と思うようになる。そこから推し進める「ベストセラーの読者=善良な読者」説のシークエンスは、実に面白い。ひょっとしたら、本文よりもこの前書きの方が面白いかもしれない。
「邪悪な読者」である著者があえて読むベストセラーは、例えばこんなものである。

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大河の一滴
五木 寛之
幻冬舎 1999-03

by G-Tools , 2007/05/18

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朗読者
ベルンハルト シュリンク Bernhard Schlink 松永 美穂
新潮社 2003-05

by G-Tools , 2007/05/18

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冷静と情熱のあいだ
江國 香織 辻 仁成
角川書店 2001-06

by G-Tools , 2007/05/18

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海辺のカフカ (上)
村上 春樹
新潮社 2005-02-28

by G-Tools , 2007/05/18

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世界がもし100人の村だったら
池田 香代子 C.ダグラス・ラミス
マガジンハウス 2001-12

by G-Tools , 2007/05/18

何せ私が読んだ本が少ないので、著者の評するところが正しいかどうかは定かでない。しかし、感情的でありながら、冷静かつユーモラスに述べられる感想は、笑っちゃうほど面白い。特に、「冷静と情熱のあいだ」(私も読んだ)の感想には大笑いしながら深く頷いてしまった。上掲のベストセラーをまだ読んでいない方、斉藤さんが代わりに読んでくれてますから、試しに本書を読んでみてください。全部読んだような気分になれます。