半身

半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)



監獄を慰問に訪れた、心に傷を持つ上流婦人が、あるはずのない花を手にした不思議な囚人の娘に出会う。彼女は霊媒……罪状は詐欺と傷害。不思議な雰囲気を持つ娘に、彼女は徐々に心惹かれていく。物語は常に、婦人と娘どちらかの手記の体裁で進み、読者に客観的判断を許さない。「幾多の謎をはらむ物語は魔術的な筆さばきで、読む者をいずこへ連れ去るのか?」
ということなのだが……正直言って、評価に困る。ネタバレせずには語れない。そんな訳で、以降ネタバレてんこ盛りで感想。

問題は、そもそもこれを「オカルト小説」と取るか、そうではないかから始まる。
創元推理文庫なんだから、これはミステリ。そう思ったのが、浅墓である。そのせいで「霊現象」を超自然的なものと思えなかった私は、「これをするには内通者が少なくとも二人は必要だから、この人とこの人が協力者。」とかまたぞろ推理してしまい、しかもそれがおおかた当たってしまった。(守護霊ピーター・クイックの正体は、最後の最後まで分からなかったので、確かに「衝撃の結末」ではあった。)
本のカバーにでも、大書すべき時かもしれない。「推理するべからず!」「推理厳禁」。
訳者あとがきにもある通り、本書こそ「その本質が謎に包まれているほど、魅力的」な物語だろう。真っ白な心で、「これはいったいどういうこと?」と思いつつ、物語に思考を委ねて読むにふさわしい一冊なのだ。
以上、自分の罪を認めてミルバンク監獄に一分間服役した上で、不満を述べる。
長過ぎる。要は、霊媒がいかにして寂しい婦人を騙すか、という話である。騙しの仕組こそ、この小説の白眉である。婦人の「騙される素地」とでも言うべき過去(父の死・女友達の裏切り)や現在(不安・薬物常用)を綴るパートがこんなにも必要だろうか?半分とはいかずとも、三分の二にはなりそうだ。
(こういう考え方が、素直に騙されて楽しもう、という姿勢の欠如につながっているんだな。)
騙してもらった。その分楽しんだ。でも、釈然としない。もしかしたら、婦人の心情に寄り添いすぎて、自分の身内が霊媒に騙されたように感じるからなのかもしれない……怪しいと分かっていたのになあ、おぬしはアホか!という。

読み終えて一番の謎は……どうしてこれが「このミス04」翻訳部門の第一位だったのか?ということ。そんなに「すごい!」か、これ?★★★☆☆