しゃばけ

しゃばけ

しゃばけ



表紙の可愛らしさに惹かれて手に取った。どんなもんでしょうね、と思いつつ。
最初は、この設定は「百鬼夜行抄」か?などと目をすがめて見ていたが、読み進む内にそんなことはどうでもよくなった。面白いのだ。


時は江戸時代。所はお江戸、日本橋界隈。主人公は廻船問屋の一人息子、一太郎、十七歳。幼時より体が弱く、死にかけたことも一度や二度ではない。息子を溺愛する両親が、彼を助けるための薬を取り寄せ続けた結果、とうとう薬種問屋まで開業してしまったくらいである。
一太郎のそばには、幼い日よりいつも手代の佐助と仁吉がいる。彼等の本当の名は、犬神と白沢……妖怪である。今は亡き祖父が、十年前に孫を守るようにと連れて来たのだ。彼等は人の姿をしているし、店の仕事もこなしているが、一太郎にはそれ以外の妖(あやかし)も見えるのだった。家財道具の付裳神(つくもがみ・器物が百年の時を経て化す妖怪)、家鳴りを起こす小鬼、鬼火etc.、etc.。
吹けば死ぬような主人公、菓子屋の跡継ぎなのに宿命的に腕が悪い幼馴染、息子を甘やかすことに血道をあげる両親、若旦那命の妖怪手代二人、敵か味方か屏風の付裳神……登場人物が実に魅力的に、生き生きと描かれている。
特に主人公の造形が秀逸。大店、蔵持ちの家に生を受け、蝶よ花よと育てられたにも関わらず、生来の病弱が幸いして(?)放蕩に陥るでもなく、傲慢になるでもなし。自分がこんにち生きていることを、日々感謝しつつ暮らしている。でも、自分の弱さや、仕事に必要とされないこと、それなのに恵まれすぎていること……そんなことが時折気になる年頃でもある。


そんな時、内緒で一人外出した帰り道で、一太郎は人殺しに出くわしてしまう。妖怪の協力を得てすんでのところで逃げ出すも、そこから奇怪な事件は発展をとげることとなる。史上最弱を誇る探偵の、大江戸妖怪捜査帳。体が弱いから苦労も多い。「格好わるいねえ。鬼退治に行く武将は、疲れたからって寝込んだりしないものだよ。」と自嘲したりもする。こういう描写も、またいい。続巻も是非読みたいものである。★★★★☆