弁護側の証人



弁護側の証人 (ミステリ名作館)

弁護側の証人 (ミステリ名作館)



古い。昭和三十八年の刊行である。描写される風俗も、実にしっかりと古い。
確かに新しくはない。だが、それでいて内容そのものは決して古びていない。驚嘆すべき仕掛けに膝を打った。なるほど、名作と呼ばれるに値する作品である。


これから本書を読まれる方に警告する。
ゆめゆめカバーに書かれた「あらすじ」を読んではいけない。私は幸運にも読了まで見逃していたが、これを先に読んでしまったら、面白さが半減するどころか皆無になると言っても過言ではない。何考えてやがんだ、これ作った人は。そこを面白がらずに、どこを読んでそういう紹介をするんだか、まったくもって理解に苦しむ。こんなカバーなら剥いで捨てたほうがマシである。
集英社文庫ISBN:4087501221、もしかしたらこちらの方が安全かもしれない(未確認)。どちらにしろ絶版なので、古書か図書館で入手するしかないが。


という訳で、私も詳しくは語るまい。
両親を失い、生活に窮してストリッパーになった女性が主人公だ。彼女はさる財閥の御曹司に見初められ、旧家に嫁すものの、周囲の理解は得られない。そこで一件の殺人が起きて……という、「ゴシック小説とは、若い娘が屋敷を手に入れる話である」という定義(トム・サヴェージ著「見つめる家」ISBN:4151001352〔結構面白い〕のエピグラフにあるアビー・アダムズ・ウェストレイクの言葉)の範疇にある物語だ。作中には、ゴシック・ロマンの代表作「レベッカ」に触れた記述もある。つまり、設定も実にクラッシックだということだ。
仕掛けについて言及せずに、本作を褒めることは難しい。しかし、少しでも触れたら勘のいい人ならば全てを見通してしまうだろう。だから言えない。若干ややこしい部分もあるが(私は「ん?」と思って何度かページをめくり直した)、腑に落ちると「そーゆーことか!」と激しく合点がいく。作者によるトリックが、犯罪のトリックを上回る点で少し辛目に★一つ減。
タイトルは言わずと知れたアガサ・クリスティの「検察側の証人」のもじり。関係ないじゃん、と思っていたが、読み終えて振り返る今、さほど無関係ともいえぬような気もしてくる。後を引く味わい深い作品であった。★★★☆☆