語り女たち



語り女たち

語り女たち

装丁 新潮社装丁室 装画・本文イラスト 謡口早苗


幻想的な連作“超”短編集。帯の文句は「微熱をはらむその声に聴き入るうちに、からだごと異空間へ運ばれてしまう、17話」。
夢見がちな性質に生まれたある男が、視力が悪化したことをきっかけに、本を読むことをやめる。代わりに、雑誌や新聞に語り女を募集する広告を載せる。女性に限ったのは、アラビアの王は若い娘を語り部にしたというひそみに倣ったためだ。
語り手たちの話は、ごく普通の日常から始まる。取材旅行で京都の竹やぶに行った。運転中に前後の車が気になる。夫に「特別に」愛されている。書店で見付けた「走れメロス」。中東や北海道の土産物。アフリカ映画。変わったプレゼント。長距離フェリー。美術館の展覧会。父との思い出。小学校の思い出。赤い本。本物の染めのハンカチ。
そんな風景や事物が、突然姿を変える。硬く丸い蕾が、ある夜突然くるりと開くように。霧が晴れたのに、あるはずのものが見えないように。ある時は心地よい驚きに。またある時はセンチメンタルな発見に。そして、時には柔らかく包み込む恐怖に……。オチはあったりなかったり、なるほどと思わせるミステリ風もあるが、多くはもやもやと幻想的なムードを残して終わる。はっきりと怪異譚となっているものすらある。
十七話の中で最も好きなのは、父との思い出を叙景的に描いた「夏の日々」。ある意味オチが見えてはいるが、やはり美しい。内容がいかに荒唐無稽でも、そこに真に共感できる描写があれば、フィクションは強い説得力を持つのだと改めて感じる作品である。


さて、不思議な雰囲気はしっかり出ているが、やや物足りなく感じることも否めない。これが作家のアイデアノート、または備忘録のような本だと感じるためだろうか?ここからいずれ中〜長篇が生まれる可能性は大きい。そういった意味では、この状況設定で長さがこれしかないのは勿体無いなあ、という数編が生み出す欲求不満なのかもしれない。これって作者の思う壺?


著者名を万華鏡のように配することで、雪の結晶を思わせる意匠をちりばめた装丁。物語のエッセンスを描き、美しすぎて恐ろしいようなカラー単色の挿絵。いずれも秀逸。ムードの多くを読むものではなく見るものが作っている。
挿絵の謡口早苗氏に興味を持ち調べたところ、宮部みゆきの「ブレイブストーリー愛蔵版」のイラストを担当している方とのこと。銅版画で幻想的な雰囲気の画風……「ターン」ISBN:4101373221!と思ったら、映画「ターン」ASIN:B000063L0Rされてもいた。なんだか不思議。
という訳で、そういうところで★一つ追加の★★★★☆。