葉桜の季節に君を想うということ

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

してやられた。
実にくやしい。
そして、楽しい。
帰宅する電車の中、降車駅に着く直前に読み終え、興奮の余り通常12、3分かかる家までの道程を10分かけずに歩き切った。頭の中で、どうして騙されたのかを考えながら。
いや、実に満足。くやし楽しの411ページであった。


とは言っても、読み始めた当初は「つまんねー」と思いながらページを繰っていた。何と言っても、主人公が気に食わない。
主人公、成瀬将虎。両親は既になく、妹と二人暮し。アルバイトを掛け持ちして生活している。長髪・茶髪。しばしば出会い系サイトやテレクラや路上で女性を口説いては、関係を持つ。ある日、自殺未遂の女性を助け、もう今日は自殺するなと諭してこう言う。
「(今日は)俺の誕生日。苦い思い出を刻み込みたくない。」
うへえ。
自分を称して曰く、「仕事ができる人間は遊びも上手だといわれるが、それは俺のためにある言葉といえよう。」だってさ。
うへえ(その2)。
あー、嫌い嫌い。ハードボイルドなナルシストが大っ嫌い。
その他の登場人物も気に入らない。自殺未遂の暗い女だの、お嬢様に惚れている高校生だの、スカーフを巻いた色男だの、ああうっとうしい。


さて、ある時主人公は以前探偵事務所に勤めていた経歴を買われ、詐欺商法とそれに関わるある事件を追い始める。それと平行して語られる彼の思い出と、詐欺商法に金も魂も取られた老女の告白。物語は、359ページまではある程度予想の範囲内でそれなりに進む。しかし、その次のページをめくった途端、まるで違う世界へと足を踏み入れることとなる。こういう展開が待ち構えていたとは……著者のアイデアとテクニックに脱帽。
いやはや、まったく。してやられた。私が悪かったよ。★★★★☆(3.5)