世界一の三毛猫 その一

私は世界一の三毛猫と暮らしている。
彼女を初めて見たのは、昼休みに勤務先の同僚がシーズー犬(の写真)を求めて開いた、ペットショップのウェブサイトでのことだった。
それまで、インターネットのペットショップなんてものがあるのも知らなかったし、見た後もそれがどんなものなのか分からなかった。工場があって、ベルトコンベアで流れてくる犬や猫を、箱詰めして送ってくるのだろうか?*1
当然ながらそういうものではなく、正確にはブリーダーと購入者の仲介をする業者なのだった。目端の利く人がいるものだ。
犬好きな彼女がシーズーにハァハァしている隣で、私は猫の写真にハァハァしようと同じページを開いた。ずらりと品種名へのリンクだけが縦に並んでいる。元来猫好きではあったが、飼ったこともなければ、品種名などにも疎かった。アイウエオ順に並んだ見慣れぬ名称を見ても、それがどんな姿なのか分からない。
アメリカン・ショートヘアは知っているが、オリエンタル・ショートヘアとは?さらに、アメリカン・カールとはなんぞや?バーマン?バーミーズ?何が何だか。そこで、一番長い名前の品種を選び、とりあえず見てみることにした。「ノルウェージャン・フォレスト・キャット」。ノルウェイの森の猫。いい名前じゃないか。
そこには、その猫の写真だけがあった。丸い猫ベッドに、窮屈そうに収まる耳の大きな三毛猫。子猫という姿ではない。その時すでに6ヶ月ほどだった。

いい写真とはとても言えない。(同僚は「シシ神様*2みたいな顔してますね」と言った。)しかも、長毛種の猫なんて、元々好きではなかった。だが、摩訶不思議なことに、私はその猫にすっかり魅了されてしまったのだった。今思うと、本当にあの時は冷静じゃなかった。子猫でもないし、それまで好きだった短毛の和猫でもない。同腹の兄弟姉妹は全て引き取り手が付いているのに、その猫だけが「売れ残り」だった。その頃のことをいくら思い出しても、何故あの写真にあそこまで惹き付けられたのかは分からない。とにかく夢中だった。あれは恋だった。


しかし、本猫に会うべく、ブリーダーさんと「お見合い」のセッティングを進める内に、徐々に浮気心や迷いが湧いてきた。心変わりにもほどがある。
ブリーダーさんが送ってくれた「最新写真」*3が怖かったり、近所に新しく猫専門のペットショップができていたり、「雄猫の方がなつく」と書いてある本を読んで悩んだり……決断に弱い性格は、いかなる場面にもいかんなく発揮されるという悪例である。
そのため、見合い当日には「見るだけ」の気分にまでトーンダウンしていた。とりあえず返事を保留して後で断れば角も立つまい、などと姑息なことまで考えていた。ここが終わったら、お台場のペットショップにでも行ってみようか、とまで思っていた。
ブリーダーさんのお宅に通され、お茶をいただきつつ見合い相手がやってくるのを待った。そこに連れて来られた三毛猫は、物怖じせずこちらに向かって歩いてきた。テーブルの上に飛び乗り、こちらに近寄り、ふんふんとにおいを嗅いだ。そして、くるりと回ってこちらに後ろを見せ、尻尾をばさばさと揺らした。
「普段は人見知りするんですけど。」と、ブリーダーさんは言った。
猫は、全然していなかった。むしろ、人間の方が猫見知りしていた。
何という美しさ、優雅さ、やわらかさ(おっかなびっくり触った)。写真では分からなかった魅力が、生きて動いて走り回っていた。その場にいるたくさんの猫の中で、彼女だけが特別に見えた。何故、他の猫の方がいいかもしれないだなんて思ったのだろう。


他の猫はもう見に行かなかった。
それから数日後、彼女を引き取りに行った。
名前の候補はいくつかあった。私は「ゼルダ」という名前で猫を飼いたかったのだが、家人は「うらら」(スペースチャンネル5*4より)がいいと主張。実際に顔を見たら「うらら」という顔をしていたので、そうなった。
こうしてうららは私たちの猫になった。

*1:http://www.ironhearts.com/diary/archives/000803.html

*2:もののけ姫」に出てきたシカ型神様。似てる?

*3:ストロボは猫写真の敵

*4:かのマイケル・ジャクソンも出演している、(脱力する)音楽ゲーム

スペースチャンネル5 パート2  Playstation 2 the Best

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