うらら・来たばかりの頃(EOS1)




一緒に暮らし始めてしばらくは、うららは自分が実は世界一であることを伏せていた。
初対面でオシリまで見せてくれたというのに、同棲し始めたらえらく恥ずかしがりやなのである。カーテンの後ろに隠れ、テレビの背後に回り、ベッドの下にもぐり、様々な手段でシャイであることをアピールしていた。
それまでに「猫の飼い方」*1のような本を読み漁っていた私は、「馴れるまで猫に構ってはいけない」という説を信じて、いじくり倒したい気持ちをじっとこらえて彼女を放置していた。
その日、猫は本棚の上に鎮座し、床に座って「トーマの心臓*2を読む私を睥睨していた。何度読んでも感動するこの名作に、私はその時も心動かされていた。どの箇所を見ていたかは覚えていない。ただ、落涙するに任せて俯いていた。
気付くと猫がそばにいた。傍らに、寄り添うように。気遣うように。
その時分かったのだ。ここに、世界一の猫がいると。

*1:役に立った本はこちら。

*2:

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)