オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

最近見たアメリカのドラマ(CSI:2)に、図書館で変死体が見付かるというエピソードがあった。(図書館+死体……いいねえ。)その中の台詞に、「オーデュボンの『アメリカの鳥』」という言葉が出てきた。折りしも、この本が手元に来たばかりのこと。何というタイミング。関係があるのかどうかは、その時点では分からなかったものの、不思議な偶然に心ときめいて読み始めた。結果、奇妙な縁に相応しい、一風変わった(しかも素晴らしい)ミステリに出会うこととなった。満足。


「陽気なギャングが地球を回す」に味を占めて手を出した、私にとって二冊目の伊坂幸太郎にして著者デビュー作。
逃げ腰な人生を送ってきた伊藤は、何を思ったかコンビニ強盗に挑戦。当然の如く失敗した上に、警官になっていた古い知り合い―城山―に逮捕されてしまう。しかし、連行中の事故で気を失い、気付くと何故か見知らぬ島にいた。
江戸以来外界との接触を断ち、完全に孤立した島。優午という名の「全てを知る」カカシが喋り、桜という名の美しい青年が生殺与奪の権利を持ち、嘘しか言わず絵を描かぬ画家や、鳥を愛しリョコウバトの絶滅を悲しむ男や、「島に足りないものを、外界から来る者が持ってくる」という伝承を信じ続ける青年が生きている場所。
そこで、カカシの優午が「殺される」。引き抜かれ、バラバラになった無残な姿で、頭部は何者かによって持ち去られて。全てを知っていたはずのカカシが、なぜ殺されたのか。犯人は?そして……。
元の世界では、伊藤を追う城山の様子が描かれる。思うように権力を行使するために警官になった彼は、実はサディストのソシオパス(社会病質者)であった。趣味で気まぐれな殺人を重ねる城山は、伊藤を見つけるために彼の元恋人の下を訪れる。その悪意の描写は、物語に強いコントラストを与える。
場面の切替、人物描写の妙、環境設定の奇抜さと、その中で構成される世界観の自然さ……フィクションを楽しむために必要な要素を凝縮したような物語。最後まで展開を予想させぬストーリーを堪能した。
今更と笑われるかもしれないが、言いたい。伊坂幸太郎、すごい!★★★★☆