少年たちの密室

少年たちの密室 (講談社ノベルス)

少年たちの密室 (講談社ノベルス)

東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた6人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?周到にくみ上げられた本格推理……(裏表紙あらすじ)


下手くそな推理小説にうんざりしている人に。──恩田陸(帯のアオリ)


という話である。
興味がある方は、以降を読まずに本作をお読みになられたし。
なぜならば、これから私が内容に触れまくるからです。うへへ。


さて、表題通り、本作は「密室」での殺人を扱っている。
ミステリにおける「密室」とは、通常「脱出/侵入不可能な閉ざされた空間」を指す。締め切られた部屋の中で他殺体が見つかった!窓もドアも閉まっているのに、中に犯人はいない……こんなのが、よく見る「密室殺人事件」だ。
しかし、本作の密室はその定義から外れることはないものの、少々変わっている。主要人物が全員いる場所で事件は起こるのだ。被害者と加害者が共に閉じ込められた「密室」で。
このアイデアは非常に面白い。犯人はこの中の誰か……それとも、実は侵入路があって、別の誰かが入ってきて殺人を犯したのか?いやいやそれでは密室としては邪道である。だとすると、やはり犯人はここにいる人間だ。しかし、目論まれた殺人ならばその方法は?車のバッテリーも切れ、漆黒の闇の中で、目指す標的を一撃で殺害することなど可能なのだろうか?
途中までこの路線でグイグイ引っ張る。突然の天災、暴力的な不良少年に対する恐怖、闇と熱と渇き、身に迫る危機的状況の描写もスゴイ。自己暗示に弱い私は、読書中の電車の中で、どうにも喉が渇いてたまらなくなった。
しかし、これが唐突に幕を下ろす。そこまで読んだ私は、「もったいないな」と思った。折角の興味深いアイデアが、まずい構成で台無しになったじゃないか、と感じたのだ。けれども、同時に残りページの量も気になった。殺人事件は犯人の告白で終わったはずなのに、これから何が起こると言うのだろう?
そして、釈然としなかった部分、腑に落ちなかった箇所が明らかにされていく……。


本作は密室殺人を扱ってはいるが、それが主たるトピックではない。
全編を通じて描かれるテーマの一つは、教師の資質である。生徒間に生じる問題に対し、教師はどのように対応するのが「正しい」のか。事なかれ主義の体質が必要であることもあるのだろうか。教師は多様な生徒一人一人に対応することは可能なのか、そしてそれはなされるべきことなのか。
教育現場で起きるトラブルが、一つや二つの事件でそれ以降根絶できるということは望めない。理想は語られ、「金八先生」のシリーズは続き、そして子供たちの問題が消えることはない。しかし、震災の後に、将来また予想される同様の災害を想定した都市の再建が可能なように、事件や事例に学び、備えることは可能なはずだ……うまくいくことが稀だとしても、諦めるべきではない。
正直、(恩田陸が言うほどには)推理小説として秀逸だとは感じなかったが、一風変わった社会派ミステリとしては中々であった。★★★☆☆