シモーヌ

倉木麻衣は、最初の頃人前に姿を現さなかった。
歌自体がどんなものだったかは既に記憶にないが、1stシングルのPVはモノクロで、必要以上に宇多田ヒカルの「Automatic」のそれに似ていた。
私は彼女がCGなんじゃないかと思っていた。
表情の少なさ、ぎこちなさや、恐ろしくエコーのかかった歌声にも説得力があった。
その後、シークレットライブをしたりして、私の疑念を強めてくれた彼女だが、大学に入ったり出たりもしていることだし、まあ多分普通の生きた人間なのだろう。


世の中にはかような妄想を抱く人が他にもいたようである。
しかも、規模が大きい。世界的大ヒット映画の主演女優、“世界の恋人”となる美女をCGでまかなっちゃうという物語だ。中々面白かった。★★★★☆
ヴィクター・タランスキー(アル・パチーノ)は10年間ヒットのない映画監督。命運を掛けた大作映画で、主演女優(ウィノナ・ライダー)と衝突、突如降板されてしまう。そこへ彼のファンであるコンピュータエンジニアが、「主演女優」を携えて現れる。声はジェーン・フォンダ、体はソフィア・ローレン、物腰はグレース・ケリー、そして顔はオードリー・ヘップバーン……しかしてその実態は?ジャジャーン、フルCGのアニメーションである。(しかし、有名女優を使った形容はどれもピンと来ないんだが。ソフィア・ローレンがあんなに細かったことってあるのか?)彼女のコードネームはシミュレーション01。通り名は「SIM ONE」……シモーヌ(レイチェル・ロバーツ)。

ヴィクターに彼女を託したエンジニアは頓死し、偶然にも秘密を知るものはヴィクターのみとなる。そして、彼女を主演に起用した映画は大ヒット。みんなが彼女に会いたがる……ヴィクターの元妻である製作会社社長、シモーヌの“共演者たち”、記者たち、そして架空の彼女に夢中のファンたち。その中でも、スクープ狙いのように見えて実はシモーヌに会いたいだけの雑誌記者のキャラクターが強烈。ステキなラストショットも、彼のために割かれている。


シモーヌで世界中を騙してニヤニヤしていた前半から、偽者のはずのシモーヌが実体のあるヴィクターを上回る存在感を示し、彼を乗っ取ってしまうかのような後半へと話は進む。どんな駄作にしても絶賛されてしまうシモーヌ。どんどん影の薄くなるヴィクター。女優としての彼女を創作したのは自分なのに、世間の評判は、彼は彼女のおかげで世に出たことになっている。
監督は「ガタカ」のアンドリュー・ニコル。作為的な構図、美しいデザインの映像は、なんだかフランス映画っぽい。
あと、最初にスクリーンに現れるシモーヌは、どーみてもきちんとCGに見える。レイチェル・ロバーツって人は本当にいるのだろうか?
あ、ちなみに映画の中に「一人を騙すより大勢を騙す方が楽」ということで、十万人の前にホログラムのシモーヌが登場するシーンがある。倉木麻衣って本当にいるんだろうか……?