コーラス


男の子はズルイ。
好き勝手奔放に振舞っても「わんぱく」で済むし、おしとやかでいることを求められたりもしない。美しい腱の足首を見せつけ、しなやかな足で走り去って行く。肌理細やかな桃の頬、小さな爪。全て、一瞬で消えてしまう幻のような“少年達”の姿。
……分かってますよ、現実の男子達がそうでないことは。肥満児に、運動音痴に、にきび面に、乱暴者。喉仏に、脛毛に、スケベ心。女子が野蛮なのと同じくらい、実際の少年達が美麗でないことは承知しているのだ。
しかし、こういう映画を見ると、やはり思わずにはいられない。
男の子っていいなあ。


この感傷は、フランス人にもあるようだ。
本作に登場する少年達は、問題があったり、素行不良であったりするにもかかわらず、それでも無垢な存在として描かれている。
しかし、誰しも年老いる。物語は少年が白髪頭になった現在から幕を開ける。
今や世界的な指揮者であるピエール・モランジュ(ジャック・ペラン/製作兼務)は、アメリカ公演の最中にある人物の訃報を聞く。その葬儀のためフランスに帰国した彼の元に、幼い日を共に過ごしたペピノが現れ、古い日記帳を見せる。その記録は、彼をかつて「池の底」で過ごした日々へと引き戻す。
二次大戦直後、挫折した音楽家にして元音楽教師のクレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)は、「池の底」という名の寄宿舎に寮監として赴任する。この学校では、戦争などで親を失った子供や、素行に問題があり親元を離れた子供たちが集団生活していた。
両親をなくしたことを信じられずに、毎週土曜日に父親が迎えに来ると思い込むペピノ(マクサンス・ペラン/ジャックの実の息子)。

未婚の母の一人息子で、極端に内気だが突発的に素行不良を起こす、「天使の顔に悪魔の心」を持つピエール(ジャン=バティスト・モニエ/サン・マルク少年少女合唱団のソリスト)。その他にも、暴力や窃盗、喧騒渦巻く少年達の群れの中に、マチューは身を投じることとなる。
癖があるのは生徒だけではない。冷酷で独裁的な校長、無気力な同僚、変人の数学教師、そして姿は恐ろしいが子供たちを愛する老用務員。しかし、マチューが子供たちと徐々に馴染むにつれ、合唱を教えることで互いに心を開くにつれ、穴蔵のようだった学校全体が変わっていく。そして、ピエールの歌に天賦の才を見出したマチューは、彼に正規の音楽教育を受けさせたいと望むようになる。更に、彼が作り、少年達が歌う曲が、彼を音楽家として世に出すことを……。



ストーリーに独創性や驚きはない。「まさかの結末」も「驚天動地の展開」もない。全員がハッピーにもならないが、陰々滅滅としたカタストロフもない。「そうか、そうなるのか……」としみじみする内に、幕が閉じる。
少しあっさりし過ぎじゃないか?とも思えるほどの短さ(1時間37分)で、ハンカチが絞れるほど泣くこともないような演出だった。だが、そこがいい。これぞフランス映画。びばらふらんす
しかし、主演のジャン=バティスト・モニエ(撮影当時13歳)の「第一声」を聞いた時には、修辞的表現ではなく、まじで背筋がぞーっとした。肺が自然と膨らみ、体が勝手に腹式呼吸をした。鐘の音が涼やかに鳴り響き、天使が頭上に花を散らした。(だんだん修辞的表現でしかなくなってきたな。)
ボーイソプラノである。それも、極上の。しかも、中々の美少年(やや顔が長いですが・将来は死神博士みたいな役が似合いそうですが)。

この歌声を差し置いてアカデミー賞授賞式で英語版を歌ったビヨンセなんざ、箒で掃いてお外にポイである。映画を見る機会がなくとも、サントラ(輸入版・国内版)で是非確認されたし。

The Chorus

The Chorus

オリジナル・サウンドトラック コーラス

オリジナル・サウンドトラック コーラス

私は映画館を出ながら、「キーリエ〜エレ〜イソーン」と歌ってしまった。ビヨンセよりも罰当たりかもしれない。


監督は、これが長編デビューとなるクリストフ・バラティエ。本作は、彼の個人的な発想からスタートしているという。

 1944年に公開された「春の凱歌」にインスピレーションを受けたバラティエは、それに加えて幼少時代、両親の離婚後親元を離れて暮らしていた時に、一人の音楽教師と出会ったことにより人生に光を見出した等身大の経験を基に、「音楽と映画が結びついた作品を作りたいと思った」と語っている。
「春の凱歌」のテーマである子供の声が産む感動、人生に失敗した音楽家がそれにも負けず、自分の周りの世界を変えていこうと努力する点にヒントを得て、誰しもが経験したことのある子供時代という普遍的な舞台を背景に幼少時代、音楽と世代間の伝達というこの作品独自のテーマを打ち出している。さらに、音楽教師、クレマン・マチューを通じて音楽の素晴らしさだけでなく、人生の歩み方、人との出会い、それによる人生観の変化なども描き出している。(公式サイトより)



しかし、日本版公式サイトにある「ママに会いたい…。たった一つの願いを歌に込めた子供たちがフランス中のハートをつかみました。」というコピーは当たっていないと思う。変にお涙頂戴路線に持っていく必要なんぞない。ハゲおやじと少年達の姿だけで、背筋が伸びるような感動を覚えることができる。「土曜日を待ち続ける」ことの意義を知ることができる。
トーマの心臓」世代に推薦。家族での観覧も強くオススメ。★★★★☆