巨大毛玉

先月のことだ。家人が猫を洗った。その後、何が悪かったのか(乾かし方が足りなかったのか、事前に櫛を通さなかったためか)、全身に大きな毛玉がいくつもできてしまった。
ほぐそうとしたが、櫛の歯が折れそうにはなるわ、猫は「やめてよ!」とローリングするわで、いかんともし難い状態であった。
インターネットで解決法を検索すると、「ほぐせないなら切れ(刈れ)」「放置するとその下に皮膚炎ができる可能性がある」と恐ろしいことが書いてある。
それでは思い切ってばっさり……と思ったが、敵は一つや二つではない。しかも根は深い。そして、猫の皮膚は引っ張るとびろーんと伸びるため傷付きやすい。
更に、私は希代のぶきっちょである。自分の前髪もちゃんと切れないのに、怪力にょろにょろ猫をトリミングできるんだろうか?


迷った時は専門家に聞こう。私は(猫の)ホームドクターに電話で相談した。すると、無理にやって怪我させるとよろしくないから連れて来なさいとのこと。
そして風光るとある午後、私と家人は不機嫌な猫を騙くらかし、なだめすかし、動物病院の手術台の上に乗せた。執刀(?)は女性二人である。
しかし、いつもの女先生は猫の様子を見ると、「これなら刈らずにほぐせる」とおっしゃる。道具はステンレス製のペット用櫛。櫛の目が細かめ→荒めと両端で分かれており、状況によって使い分けができる優れものである。これはいい。欲しいな。
「その櫛は普通に買えますか?」
「うん、これは百円ショップで買った。」
弘法が筆を選ばぬにもほどがある。
しかし、テクニックはさすがプロである。我々が手も足も出なかったひどい毛玉の数々が、徐々にしかし確実にほぐされていく。絡んだ毛が次々に解かれ、猫毛の山ができてくる。
猫はプロ相手には大人しい。さしたる抵抗も見せず、うずくまって固まっている。しかし、静かな反抗を試みている。その方法は、匍匐前進である。
先生方コーミング→猫にじるように少し前進→先生方猫に合わせて移動してコーミング→猫なおも前進……だが、手術台の上からは怖くて降りられないので、結局その場をグルグル回っているだけの猫なのだった。


結局……
所要時間1時間。
費用¥2,500。
取れた毛玉の量、ヒトの脳みそ大。

(横にあるのは標準サイズのボールペン)


教訓:シャンプー前には鬼のようにブラッシングして、シャンプー後は徹底的に乾かそう。


そして、何故かあれほどの毛を失ったようには見えない猫。

なんでだ。