探偵伯爵と僕

探偵伯爵と僕 (ミステリーランド)

探偵伯爵と僕 (ミステリーランド)

読書スランプリハビリ中の「推薦図書」第一冊目。
「全てがFになる」などで知られる作者による、夏の香りのする秀作。草いきれ、花火の火薬、汗のにおい。あなたを小学生の夏休みに連れ戻す、ある夏の物語。★★★★☆


物語は、語り手である小学生馬場新太による「夏休みの日記」の体裁で始まる。
彼は夏休み前のある日、公園のブランコに乗る奇妙な人物に出会う。真夏というのに全身黒づくめの厚着、大人の癖に公園で一人遊び、更に職業は「探偵」、日本人にしか見えないのに名前は「アール」、その上「伯爵」だと名乗る。変な人で少し怖い、と思うと同時に、ミステリ好きの新太は、初めて見る生身の探偵に魅せられる。そして、彼の秘書だという謎めいた女性「チャフラフスカさん」によれば、彼は彼女から逃げ回っているという。ヒゲを生やしたいい大人だってのに、やっぱり変な人だ。
そんないつもと違う夏休み、夏祭りの準備をしている最中に級友が行方不明になる。最後に会ったのは自分かもしれない……気に掛かる新太は、自ら調査を始める。謎の人物を追っている(らしい)伯爵の協力を得て、小学生と変人の不思議な夏が始まった……。


この物語が、子供にとって楽しいものなのかどうか、よく分からない。
子供を失う恐怖と悲しさ、大人でいることの責任……そういったものが多く描かれており、むしろ「子供を持つ親」に向けられているように感じるためだ。我が子を思う余り頑なになる母、辛い過去に立ち向かうチャフラフスカさんの心情を、小学生の頃の私は理解できただろうか?
無論、子供たちが(時に鬱陶しく感じる)親の愛情を理解する手助けにはなるだろうし、何よりも「おはなし」として非常に良くできているため、これは杞憂かもしれない。また、凶悪犯罪を抑止するために死刑は有効な手段だろうか?という問題も、非常に分かりやすく示されており、これは私にも勉強になった。犯罪に対する社会制度のあり方、市民の責任にも(やさしくしかし詳しく)触れられている。
この本の最後のページを見た読者は、奇妙な感覚を抱くだろう。こうすることを選んだ主人公の気持ちを思うと、何だか切なくなる。辛い現実から逃げない。でも、それをそのまま伝えられない。子供でいることって、時々とても大変なのだ。