魔女の死んだ家

魔女の死んだ家 (ミステリーランド)

魔女の死んだ家 (ミステリーランド)

ミステリーランド」4冊目。
このシリーズを「児童書」だと考えるのは、もうやめようかなあ。
「あの女はそんな、普通の家庭に収まって奥様をやってられるようなタマじゃあなかった。淫乱な血が流れていたんですよ。」なんちゅう台詞が出てくる子供向けの「おはなし」なんてあるかい。タマっつってもサザエさんちの猫と違いますよ。インランというのは金襴緞子に似てるけど、関係ないですよ。インリンとはちょっと関係あるかもしれませんが。
ということで、お子様オススメ度は低め。しかし、それを考慮の外にするならば、中々面白かった。★★★☆☆


物語は、ある一人の女性をめぐる関係者の証言を連ねた形になっている。
彼女は大きな屋敷に住む麗人で、幼い子供、使用人たちと共に高い石塀の中に閉じこもって住んでいる。屋敷には夜な夜な彼女を慕う「すうはい者」達が集っていた。いつも黒い大振袖を引きずり、赤い襟に宝石をのぞかせ、裸足で赤い爪を見せ付ける彼女は、天使とも魔女とも言われていた。
「すうはい者」達が集うある夜、密室の中で彼女の射殺体が発見される。部屋の中には、泥酔して意識不明の彼女の元婚約者。彼の手の中にはアンティークの銃があった。
彼は彼女を殺した記憶はないと主張するが、彼の手の中にある銃で、彼女が自殺できるはずもない。司法は彼を犯人として断罪するも、証言者たちの意見は様々に食い違う。
そして、物語は様相を変え、記憶を失った一人の少女の独白となる……朧に浮かんでは消える、桜の木下にたたずむ修羅の顔の女性の記憶。そして、彼女は石塀に囲まれた屋敷を訪れる。あの事件のあった場所を。事件から十年後、関係者たちによって解かれる事件の真相とは?


これはゴシック小説である。
アビー・アダムズ・ウェストレイクの言葉によれば「ゴシック小説とは、若い娘が屋敷を手に入れる話である」(トム・サヴェージ著「見つめる家」のエピグラフ)。文学的定義としてはともかく、この言葉は中々洒落ていてよろしい。
(ゴシック小説について詳しく知りたい方は、若竹七海の「古書店アゼリアの死体」*1をご参照のこと。というのは、半分しか冗談ではありませぬ。)
古い屋敷、閉鎖的な空間、謎めいた家族、そして美しい女主人……ムードばっちり、いつでも死んでいいぞ!というところである。波津彬子のイラストが、非現実的なまでに完成された屋敷と女性を幽玄な雰囲気たっぷりに盛り立てる。ルポルタージュ風の構成や、物語の中心にいながら謎めいた仮面を外すことのない女性の造形も魅力的だ。
しかし、ミステリとしてなんとも納得のいかぬ部分がある。それは、探偵がどこの誰なのか分からないということだ。もしかして書いていないだけで、匂わせているのか?と思い読み返してみたものの……やっぱり分かりませんでした!どなたか「はっはっは、バカだなあ。あれは……」と教えてくださる方がいらしたら、是非ともご一報ください。


ところで……最後の最後まで「篠田真由美」を「篠田節子」と勘違いしていたことは、ここだけの秘密だ。

*1:

古書店アゼリアの死体 (光文社文庫)

古書店アゼリアの死体 (光文社文庫)

シリーズ第一作
ヴィラ・マグノリアの殺人 (光文社文庫)

ヴィラ・マグノリアの殺人 (光文社文庫)

もよろしく