アイルランドの薔薇

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

あなたがミステリに求めるものはなんだろう?
私にとってそれは「謎解き」だ。絡み合う疑問点を整理し、次々に仮説を立証していく過程がたまらない。(だから所謂「リドルストーリー」が苦手だ。謎を謎のまま放置されるとムズムズする。)
この小説には、そんな「謎解き」の興趣がぎゅうぎゅうに詰まっている。さあ、もつれた糸を解きほぐそう


アイルランドの片田舎、スライゴーにあるB&B(朝食とベッドを提供する簡易宿)に、9人の客が集まった。
釣りに来た三人の常連客。
雨に降り込められたダブリンの科学者と、その友人の日本人科学者。
休暇中の会計士。
アメリカから祖父の国を見に訪れた女子学生と、彼女と偶然空港で出会った英文学専攻のアメリカ人女子学生。
オーストラリアから商売でやって来たビジネスマン。
彼等を迎えるのは、美しくもどこか陰のある女主人と、彼女の甥だという青年。そして、妙に防音のしっかりした宿。
初対面の彼等は、和気藹々と第一夜を過ごす。そして、翌朝食堂の窓の下に、釣り人の一人が遺体で発見される。頭を鈍器で殴られ、膝は砕かれている。それを見た仲間二人は、他の泊り客に銃を向ける。「仲間を殺したのは誰だ。犯人が分かるまでは、誰一人としてここから帰さない。我々はNCFだ。」
英国に属する北アイルランドの独立及び南北統一を目指す武装組織、NCF。彼等の悲願であるアイルランド和平実現を目前に控えた政治的理由で、警察に通報はできない。この状況を解決するため、全員が閉ざされた宿の中で協力して犯人探しに乗り出す。しかし、その中には犯人だけでなく、NCFが予め送り込んだ暗殺者が潜んでいるのだった……。
見知らぬ者同士と、知らぬ振りをする同士が危うい均衡を保つ状況下で、日本人科学者フジが鮮やかに立ち回り、謎を解いていく。犯人は誰なのか。その動機は。そして、顔の見えない暗殺者の正体は……?
日本人には余り馴染みのない「北アイルランド問題」も詳細に語られる。南北に引き裂かれた国の悲劇。詩人イェイツによって薔薇に例えられた、血を流さずに得られぬアイルランドの平和は実現するのだろうか?


面白そうでしょう。読んでいる間は、すごーく面白いですよ。
ここまで煽っておいて、なんだか微妙な褒め方になってしまうのは、探偵であるフジのキャラクタに今ひとつ親近感が持てぬせいかもしれない。
同僚からも謎めいた人間だと思われている。何をやらせてもさらっとこなしてしまう。どのような局面でも感情的になることなく、常に状況を客観的に見ている。銃を向けられても飄々としており、その後で「怖かったあ」と言う。フィクションの登場人物に難癖付けるのも大人気ないが、なんだか嘘っぽい。(最後に「実は私はアンドロイドなのです」とか言い出すのかと期待したが、別にSFではないのでそういう展開にはならなかった。)
また、読んでいる間は「ほうほう、どうなるどうなる」とわくわくしていたのに、読了後は「ふーん」という程度になってしまった。何故なのかは、自分でもよく分からない。あんまりにも熱中して読んだために、燃え尽きてしまったのかもしれない。しかし(とりあえず今のところは)、もう一度読み返そうという気分にはなれない。
再度言うが、読んでいる間は実に集中し、熱狂した。それを味わうためだけでも、お試しになる価値はある。
あなたもわくわくしてみませんか?★★★☆☆(後日評価は変わるかも?)