月の扉
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/08/21
- メディア: 新書
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ということで、私が勝手に「閉鎖状況の匠」と名付けた石持浅海が送る、大規模な密室ミステリ。前作「アイルランドの薔薇」に続き、今作でも閉ざされた環境での不可解な殺人事件を描く。
沖縄県那覇空港発東京行きの琉球航空機ボーイング767-300ERが、離陸直前に三人の男女によって占拠される。彼等は乗客の中に居合わせた3人の乳児を人質に取り、機の停止を命じ、乗員乗客245名を機内に閉じ込める。そして、沖縄県警に対して奇妙な要求を出す。それは、現在沖縄県警に拘留されているある男性を、2時間半以内にハイジャック機のある那覇空港まで連れて来い、というものだった。「釈放する必要はない」という言葉を添えて。ただし、この指示に従わぬ場合には、人質の命はない。混乱する県警。
子供を奪われた親を初めとする乗客とハイジャック犯の間で、緊迫した時が過ぎる機内。そんな状況下で、人質の一人の母親の死体が発見される。凶器を持つのはハイジャック犯だけのはず……しかし、彼等は自らの潔白を主張。そして、人質の命を盾に、偶然発見現場にいた乗客を探偵に任じて事件解決を強要する。
何かを隠蔽しようとしている県警。無理矢理探偵をさせられる若者。そして、「善良な」ハイジャック犯たちと、事件の中央にいるある男。彼等の目的は何なのか。そして、機内の殺人事件の犯人は?
今回も面白かった。最後の最後までは……。
しかし……ああいうオチはちょっといただけないなあ。
この作者は、まず状況(謎めいた殺人)を設定し、それからそうなるための条件(場所・人物・動機)を想定しているように思える。そのため、特殊な状況を導くために、異常な条件を持ち出すこともためらわない……のかもしれない。
だから、謎が解かれるシークエンスは非常に面白い。こんな不可解な事件がどのように行われたのか?わくわく。だが、その動機や人物設定となると、(状況がそもそも異常であるだけに)共感・理解しがたくなるのだろう。
凄く面白いのに、没頭させるだけの魅力があるのに、残念ながら★★★☆☆。でも、他の作品ももっと読んでみたい。不思議な作家である。