グラスホッパー

グラスホッパー

グラスホッパー

これは、哺乳類と昆虫の名を持つ殺し屋の物語。
そして、裏家業に迷い込んだ男と、花の名を持つ謎めいた男の話でもある。
残酷な描写が淡々と綴られる。血は流れ、刃は肉に食い込み、多くの命が失われる。
自由な精神は束縛のない世界にしかあり得ないのか、それとも奴隷でありながら自由に飛び立つことが可能なのか。男たちは、命を賭けて真実を探っていく……ある者は自ら望んで、そしてある者は無意識に。


鈴木は、交通事故死「させられた」妻の復讐のために、裏家業へと足を踏み入れた。
は、依頼人の指示で対象者を自殺させる。
は、エージェントの岩西の命令で、事情も知らず大量殺人を重ねる。
鈴木の目の前で、敵と狙う寺原の息子が車にはねられる。組織は「押し屋」による殺人と断じ、姿の見えぬその男を追う。なりゆきで、それと思しき男を追跡する羽目になる鈴木。
「仕事中」だった鯨は、偶然その現場を目撃し、過去の過ちにさいなまれる。鯨を襲う幻覚。現れては消える、彼に「自殺させられた」人々の姿。
彼等の周囲を旋回していた蝉は、ふとした偶然から物語に入り込んでいく。無邪気な殺意と、自由を求める苛立ち、好奇心が彼を事件の中心へと誘い込む。
彼等の罪は罰せられるのか……それとも、清められるのだろうか


「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」に続く、伊坂版「罪と罰」。
止まるところを知らぬ波乱の展開と、奇妙な悪人たちの描写が魅力的で、気付いたら一日で読み終えてしまった。
生と死の危うい境。一足飛びで越えられそうにも、竦んだ足がいつまでも私を引き止めるようにも思える。死を目前にしなければ、生の姿は見えないものなのかもしれない。できることならば、(この小説の登場人物たちのように)陰謀や暴力によらず、静かにその時を迎えたいものだ。
「伊坂節」に時ににやりとはするものの、全体としては実に「文学的」で、娯楽第一の私にはちょっと難解だった。もう少し年齢を重ねてから、再読してみたい。★★★☆☆