文学刑事サーズデイ・ネクスト2 さらば、大鴉

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文学刑事サーズデイ・ネクスト〈2〉さらば、大鴉
ジャスパー フォード Jasper Fforde 田村 源二
ソニーマガジンズ 2004-09
評価

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ! 犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 ボートの三人男 魔術師 (イリュージョニスト)

by G-Tools , 2006/10/10


面白かった!面白かった!おーもーしろかったーっ!
でも、
ちょっと消化不良!


ジェイン・エアを探せ!」に続く、サーズデイ・シリーズ第二弾。
前作で起きた「大事件」によって有名人となったサーズデイは、前作の最後である男性と結婚したものの、新婚生活をじっくり楽しむ余裕もなく、スペックオプスの広告塔として走り回っていた。
勿論、リテラテック(文学刑事)としての業務も平行して行っている。よくある贋作事件と思いきや、シェイクスピア幻の戯曲が発見されるという椿事が発生する。さて、これは偽物の傑作か、真作の本物か?
そんな中、彼女の周囲でおかしなことが起きる。「時間」に異常が出る。自分にしか聞こえない声(脚注)が、彼女に内容不明の裁判の弁護をすると申し出る。エントロピーが極端に減少し、奇妙な偶然が集団で押し寄せる。そして、時空お尋ね者の父が「世界の終わり」を予言する。更に、卑劣な手段によって奪われる彼女の家族。
ジェイン・エア」同様、パワフルでユニークな世界をサーズデイが走り続ける。笑って泣いて、怒って疲れて、いつでも元気とはいかなくっても……愛する者たちのために。


私が言う「いい本」は、読むうちに「その場所」へ連れて行ってくれるものだ。
登場人物の心に自然と寄り添い、気付けば体にも馴染んでいるような気がする。共に喜怒哀楽し、心臓をドキドキさせ、汗をかく。描写される風景が閉じた目の中に広がり、風のにおい、空気の温度、周囲の音を感じる。それがどんなに荒唐無稽で、見たこともないようなものでも、何故か「真に迫った」想像ができる。……それが、「いい本」だ。
この物語では、それを実際にも、文章の中にも味わうことができる。回りくどい表現になってしまって申し訳ないが、是非このシリーズを読んでみてほしい。あなたにも、私の言いたいことをお分かりいただけるだろう。
ちなみに、本作の原題は"Lost in a Good Book"という。


本シリーズは、ユニークな人物に満ちている。
前作の主要登場人物のほかに、本作では魅力的な新キャラクタも現れる。
サーズデイを広告塔としてこきつかうコーディリア。彼女の、「牛乳を腐らせるほど服のセンスが悪い」という設定には笑った。
また、恐ろしくパワフルな老女二人。直接対決がないのが実に残念。卓球vs暴走、とかやってほしかった。
卑怯で強力なゴライアス社、彼女を目の敵にするスペックオプスの管理部門、そして前作から続く遺恨ある敵など、対立するキャラクタも生き生きと(腹立たしく)描かれる。
「時間」を扱うことが多いせいか、今回はちょっとSF風味が強い。壮大なハルマゲドンや、生命の創造も語られる。
そして……最後のページが終わる。「最大の問題」の解決を見ないまま!
どこにも書いていないけれど、これは「つづく」ということなのだ。ううううううううううー、続きを、続きをくれえ。ひしゃくもくれー。
日本語訳は、去年出た本作まで。(影山徹氏による日本語訳の表紙絵は秀逸!)しかし、イギリスでは続く2冊に加えて、まもなく最新刊も発売予定らしい。ああ、気になる。三冊目の"The Well of Lost Plots"だけ読んじゃおうかなあ……読了までに翻訳が出てしまうような気もするけど。


そうそう、本作のサーズデイは、なんと大阪に行くのだ。いんちき英語のTシャツを「漢字が書いてあればカッコいいと思うイングランド人と同じ」と冷静に評価し、活気あふれる街を歩いている。
それに、ISBNが何のためにあるのか、「トリストラム・シャンディ」*1が極度にアバンギャルドな訳、ビデオの取説が分かりにくい理由も分かる。また、「ダイソン」の掃除機の便利な使い方も。やっぱスゴイわ、ダイソン。★★★★☆

*1:

トリストラム・シャンディ (研究社小英文叢書 (264))

トリストラム・シャンディ (研究社小英文叢書 (264))