ある日どこかで





今となっては考えがたいことだが、中学生〜高校生の一時期にしばしば夜更かしをしていた。それも、一度「おやすみなさい」とベッドに入ってから、わざわざ目覚ましをかけて深夜にこっそり起き出していた。それで何をしていたのかというと、TVの深夜番組や映画を見るだけである。かわいいものだ。
その時見た映画のいくつかにはいたく心を動かされ、翌日友人の迷惑も顧みずに最初から最後までストーリーを語りまくったりしていたものだ。いやあ、本当にあの時は悪かった。
ある日どこかで」はその中の最も印象深い一本である。ハマった余りに友人たちとの集まりにビデオを持ち込み、上映会を無理矢理開催したほどだ。いやあ、あの時は本当に強引だった。
そして、その上映会以来となる再会である(8/24WOWOWで放映)。純情可憐な少女がカンドーしたロマンティックなラブストーリーは、今の私にどう見えたのだろうか。


物語は1972年、ある大学の劇場から始まる。新人劇作家のリチャード・コリアー(クリストファー・リーブ)は、初めての成功に酔っていた。そこへ、静かに一人の老婆が近付き、彼の手に懐中時計を握らせて言う。“Come back to me.”見知らぬ老婆に訳の分からぬことを言われて混乱するリチャード。
老婆は宿泊するホテルに戻り、夢うつつのままオルゴールの蓋を開く。流れるメロディーは「パガニーニの主題によるラフマニノフのラプソディー」。
それから8年後、売れっ子劇作家となったリチャードの部屋にも同じ曲のレコードがかかっていた。煮詰まっていた彼は、気分転換のために大学時代を過ごしたミシガンへと赴く。そして、ふと目に留まったホテルに、気まぐれで一泊することになる。
そして、彼はホテルの史料室で一枚の写真に出会う。68年前の夏にホテルを公演で訪れた往年の女優、エリーズ・マッケナ(ジェーン・シーモア)のものだった。古びた印画紙の中からこちらを見つめる彼女に魅了されたリチャードは、図書館で彼女のことを調べる。すると、晩年の彼女の写真に、8年前の謎の老女の面影を見出したのだった。
不思議な運命を感じるリチャードは時間を越える恋に落ち、どうにかして既に亡きエリーズに会えぬものかと思い悩む。彼を過去へと導くのは、古い服、コイン、そして当時のままのホテル。しかし、過去において彼女は大女優、彼は何の経歴も財産も持たない男。リチャードはどうやって彼女への思いを伝えられるだろうか……。


見直して思ったこと。
・リチャードはアホ
・リチャードは自分勝手
・リチャードはストーカー体質
というのは半分冗談だが、以前は気にならなかった主人公の無計画・身勝手さに腹が立ったのは事実である。小銭だけ持って豪華ホテルに行くなよ。自分だけ「彼女とは60年後に再会する」ということを知っているからって、一人突っ走り過ぎ、強引過ぎ。
しかし、十数年前に私を惹き付けたものは、やはり今の私をも魅了した。美しいホテル、ジョン・バリーによる素晴らしいサウンドトラック、そしてロマンティックなシチュエーションの数々。内側から光り輝くようなジェーン・シーモアの美貌も眼福。首の太さがひたすら気になるクリストファー・リーブを見るのもまた楽しい。★★★☆☆


私はシャイなので、実生活では猫以外にはベタベタできない質である。できないと思う=本当はしたい、なので実際にはコテコテにロマンティックな状況に強く憧れている。(月夜に花束持ってひざまずいてカンツォーネを歌う、とかバカなシチュエーションでもぐらっとくるであろう。本当にバカだ。)だが、同時に「ラブストーリー?けっ」という天邪鬼な側面も強く、素直にそういったフィクションに耽溺することもしたくはない。まこと鬱陶しい人格である。
この映画がそんな「隠れロマンティスト」たる私に訴えかける力の強いこと、強いこと。
<以下内容に触れるところがあります>
老婆の「戻ってきてね」という謎めいた言葉。
主人公に初めて会うヒロインの第一声が「あなたなの?」。
全編を通じて流れる「ラフマニノフのラプソディー」。
オルゴール、懐中時計、彼を見つめる彼女の視線、白いドレス、湖、木漏れ日の庭……はあ、私もヒラヒラの服で夏の庭を走りたい。(目的地:特になし)


本作の(ためにセットとして作られたかのように完璧な)舞台は、アメリカはミシガン州のマキナック島にある「グランド・ホテル」。夏季限定のリゾートホテルである。
http://www.grandhotel.com/
いつか行ってみたいなあ。


数年前に原作の小説を読んだ。
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ある日どこかで
リチャード マシスン Richard Matheson 尾之上 浩司
東京創元社 2002-03

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勿論、大いに期待して。しかし、その物語は記憶にある映画のきらめきを感じさせぬイヤーな話だった。(主人公が嫌い。とにかく嫌い。)「自分が変わってしまったせいだろうか」と思い悩み、発売されたばかりのDVDを買うのもやめてしまった。
でも、やっぱり買おう。自分の子供が中学生くらいになった時に見せてみよう。どうだろうか。受けるだろうか。それとも「けっ」と言われるのだろうか……。


サントラもおすすめ。
photo
Somewhere In Time (1998 Re-recording)
John Debney Lynda Cochrane Edwin Paling
Varese Sarabande 1998-09-08

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