憧れの髪型

 私の髪は発育速度が遅い。ような気がする。
 その上、まとまりの悪い癖毛である。そのため、うんと短くしておくでもない限り、扱いが厄介だ。(1)一念発起「伸ばすぞ!」と思っても、(2)結べる長さになるまでが辛い。ようやく伸びても、(3)ある日突如飽きてばっさり切ってしまう。そして(1)に戻る……というアホーなサイクルに陥っている。滅多に会わない友人は「会うたびに髪形が違うよ」と言う。ごもっとも。
 長くしている間に飽きさえしなければ、ロングヘアをキープできるはずである。手持ちの長さで色々な髪型に挑戦していれば、飽きもしないはずだ。しかし、私は不器用なのだ。ショートヘアの期間が長いこともあり、自分の髪が長いことに慣れていない。みつあみするだけでも一苦労である。しかも、高校時代に友人に指摘されたのだが、私のみつあみは編み込む手順が逆らしい。「逆編み(裏編み?)だよ」と言われてしまった。情けないことに、未だに「正しいみつあみ」を習得できぬままでいる。(ちなみに、「正しい蝶結び」も未だにできない。)そうして、仕方なく毎日同じヘアスタイルでいる。飽きる。突発的に切る。まこと学習しない生き物である。
 今年の夏は美容院に行けなかった(長時間拘束される環境下で急に気分が悪くなったら怖い)ので、暑かろうが飽きようが切ることはできなかった。肩の下15センチ程度に伸びっぱなしである。下ろしていると暑い。そのため、「夜会巻き」なる髪形を習得して気分を変えた。私にしては画期的である。
http://plaza.rakuten.co.jp/toutcequibrille/3001
 かんざし(ただの棒・どう見ても箸の片割れ)を購入し、幾度もの特訓の後、ようやく髪を上げられるようになった。クルクル巻いてきゅきゅっとひねって留める。それだけのことなのだが、何せ元が不器用なので達成感に満足すること甚だしい。嬉しくなって巻く過程から家人に見せたが、どうにも理解しがたいらしく、まるで興味を示さない。女っぽい人だと思っていたのだが、こういうことには関心がないようだ。ちょっと安心した。


 そんな訳で、最近の私の頭は、一見した所お箸の刺さったまとめ髪。ちょっと間違えると、「毎日母さん」のサイバラ母さんのようになる。割烹着が良く似合う。
 だが、呆れたことに「飽きの虫」がまたぞろ現れた。まあ、秋だしね(無理矢理)。そんな時、とてもステキな髪型に出会ってしまった。それがこちら。

 ううーん、ステキ。美人だし。
 前髪を七三で分けてみつあみを二本作り、それを上にぐるっと巻きつけている。そこまでは分かる。しかーし、「端」の処理をどうしているのかが見えない。また、キリコのトルソのようにのっぺりした私の頭に、このみつあみはうまくひっかかるのだろうか?その上、後ろから見た様子をじっくり観察したいのに、どうしても適当な写真が見付からない。小さな画像に目を凝らすと、後ろ側に分け目はないようだ。うーむ、一体どういう仕組みになっているんだろう?みつあみ型ヘアバンドか?
 ちょっと試してみた。髪を二つに分け、二本のみつあみを作り、それを左右から頭頂部に上げて留める。うまくいかない。みつあみの付け根が妙に外側へ膨らんでしまう。写真の女性のみつあみは「平たい」のに対して、わたしのそれは「丸い」のだ。ピンで留めて押さえても、頭に密着しない。また、頭頂部の処理も綺麗にできない。どーやったらあんなふうに端が見えないようにできるんだ!私がやると、なんだか「みつあみを仕方なく上に留めている」ようにしか見えない。とてもじゃないが、人前に出せるアタマではない。


 この写真の女性も、最近「人前」から一歩遠ざかった。
 彼女の名前はユリア・チモシェンコティモシェンコ)。今年の9月8日までウクライナの首相だった人物である。今年2月に(政敵にダイオキシンを盛られたことで世界的に有名になってしまった)ウクライナ大統領ユーシェンコ(ユシチェンコ)から、首相に指名された。

 しかし、わずか7ヶ月ほどで全閣僚と共に大統領から解任されてしまった。
http://cnn.co.jp/world/CNN200509080026.html
 彼女は、「ウクライナジャンヌ・ダルク」と呼ばれる人気政治家なのだそうな。一体誰が言ってるんだ>ジャンヌ・ダルク。縁起悪くないのか?ともあれ、その美貌で大人気。ファンサイトがゴロゴロある。ウクライナ語もロシア語も分からないので、多分「ファン」なのだろう……という推測に過ぎないが。
 真実を知りようもないが、清廉潔白な人柄ではないと言う人も。
http://armenia.hp.infoseek.co.jp/e010.html
 これを読んだからという訳でもないが、解任された時の様子を「解任の20分前、私は大統領に寄り添って手を握り、国民の希望と革命の名声を傷つけないようにお願いした」と語る彼女には、何となーく嫌な印象を持った。寄り添うな。手を握るな。お前はおやじキラーか。川島なお美か。

 
 ウクライナという国について、私はほとんど何も知らない。唯一、今年読んだ「ペンギンの憂鬱」で語られる不条理な不安定さに満ちた国が私にとってのウクライナだ。

photo
ペンギンの憂鬱
アンドレイ・クルコフ 沼野 恭子
新潮社 2004-09-29

by G-Tools , 2006/10/21



 無論、物語はフィクションであって、本当にあのような国だと思い込んでいるわけではないが、彼の地に暮らす国民はああいった不安を実際に抱えているのだろう。ユーシェンコ大統領になって、小説に描かれた不安定さが解消されたのかと思っていたのだが、そう簡単には行かぬようだ。国情が安定し、人もペンギンも安楽に暮らせることを願う。


 さて、チモシェンコ・ヘアになれなかった私は、結局髪を切ってしまった。今短くしてしまうと、今後一生「合理的ショートヘア」にしてしまいそうだ……と思いとどまっていたのだが、一念発起して肩の上まで切った。というのも、産後数ヶ月で髪が「どばっと」抜けると聞いたからである。そんな時に長いままだと、同じ本数抜けるにしてもショックが大きそうではないか。
 このようにして、私はまたも髪形を変えてしまったのであった。