死神の精度

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死神の精度
伊坂 幸太郎
文藝春秋 2005-06-28
評価

魔王 チルドレン 砂漠 アヒルと鴨のコインロッカー ラッシュライフ

by G-Tools , 2006/10/12



 伊坂幸太郎という人は、キャラクタ設定に恐るべきセンスがあるように思える。独特の奇妙な状況を創出してもいるのだが、やはりその作品の魅力は登場人物の性格にあろう。ある特性を強調した人物を物語の要所要所に配置した段階で、小説の生命力がぐんと上がっているような気がするのだ。




 本作の主人公は、ある一人の「死神」。天本英世とかじゃなく、正真正銘の職業死神である。死神組織に属し、情報部の指示で、「死すべき運命」の人間が指定の日に死ぬべきなのかどうかの最終調査をするのが彼の役割だ。「可」か「不可」かを報告した後、その結果を見届けて業務は終了する。
 必要な情報以外は世間知らずで、暗喩や慣用表現などのレトリックを時折言葉通りに取って混乱する。「人間らしい」感情は持ち合わせない(人間じゃないからね)が、唯一「音楽」だけは人間が作り出したものの中で価値があるとして、強く愛している。
 そんな彼(人間名は「千葉」)を狂言回しに据えた連作短編集である。何せ「人間じゃない」ので、容姿も年齢も各話(仕事)で変えられる。クライムサスペンス風あり、吹雪の山荘の密室ミステリありとストーリーのバリエーションも豊か。なるほど、うまいことを考えたものだ。
 しかし、それぞれの話は(それなりの水準には達しているものの)さほどのものでもないかな……と思いつつ、それでも最後まで読んだ。だが、全て読み終えた時、私は充分に満足していた。なるほど、これは私が読みたかった物語だ。自分では分かっていなかったけれど、伊坂幸太郎はそれを知っていたのだろう。やっぱうまいわ。