千住家の教育白書



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千住家の教育白書
千住 文子
新潮社 2005-09
評価

千住家にストラディヴァリウスが来た日 母と娘の協奏曲 母と神童―五嶋節物語 千住博の美術の授業 絵を描く悦び 聞いて、ヴァイオリンの詩

by G-Tools , 2006/10/15



 タイトルや裏表紙の紹介文を読むと、「子供を芸術家に育てるには」というHowTo本のように思われるかもしれない。しかし、実際の内容は「ある家族の記録」である。ある男女が出会い、お互いを認め合って夫婦となり、苦しい生活を克服して三人の子を儲け、そして妻の両親の最期を看取る。それだけのことだ。だが、それだけのことがこれほどまでに美しいということがすばらしい。
 本書を読んでも、芸術家育成には寄与しまい。けれども、読者は何かを得ることができる。ぜひ、お読みいただきたい一冊である。


 千住博日本画家。千住明は作曲家。千住真理子はヴァイオリニスト。この世界的な活躍を見せる三人は、兄妹として共に育った。本書の著者は、その母である千住文子氏である。だが、ご本人の語るところを見る限り、彼女と夫(後の慶應義塾大学名誉教授・千住鎮雄氏)は最初から彼等を芸術家にしようと育ててはいない。ただ、興味の向くところを大人の理屈や都合で塞がず、しかし本人が始めたことにはきちんと責任を持たせる。そうしている内に、自然と子供たち自身が自分の方向性を見付けていくのだ。
 無論、本書に書かれていないことの方が多いだろう。子供たちが常に「いいこ」だったとは考えられないし、両親もまた書かれた以上の後悔と反省を繰り返したことだろう。だが、選ばれたエピソードに含まれる誇り、恥じらい、悩み、そして強い喜怒哀楽には強い力がある。それらは読者をして時に微笑ませ、時に考えさせ、また時に涙を流させる。
 一人の母親が語る、ある家族の物語。かくありたい、と学ぶことは多かったが、それを真似ではなく自分のやりようとして得られればとも思う。