鴨川ホルモー

photo
鴨川ホルモー
万城目 学
産業編集センター 2006-04
評価

by G-Tools , 2007/03/03


このごろ都にはやるもの、
勧誘、貧乏、一目ぼれ。
葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。
腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、
出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。
このごろ都にはやるもの、
協定、合戦、片思い。
祇園祭宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。
「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。
戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。
恋に、戦に、チョンマゲに、
若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。
京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。
都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。
前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。
鴨川ホルモー」ここにあり!!

(表紙折り返しのアオリ文。誰が書いたか、中々そそる。)


去年の夏に、ミステリチャンネルの「ミステリブックナビ」で、ミステリ売上ベスト5(三省堂書店神田本店)の5位に入っていたのが本作を知ったきっかけである。他の小説は、(作者なり作品名なり)どこかしらに馴染みがあったのだが、これに関してはまるで知識がなかった。しかも、このコーナーでは上位3冊以外については内容紹介を一切しない。そのせいで、かえって好奇心をそそられたのだが、最近まで読む機会を逸していた。
いざ読んでみると、かなり変わった小説であった。まず第一に、全然ミステリじゃない。あえて分類するなら、「青春小説」だろうか。しかし、それだけではない。青春+α……それが「ホルモー」である。
なんのこっちゃ、とお思いの方は、試しに読んでみてほしい。毎度の事ながら、事前知識なしをオススメしたいので、以下は読み飛ばしを推奨する。好き嫌いは別れるだろうし、粗や未熟さが少なくない作品ではあるが、私はとても楽しく読んだ。


舞台は京都。主人公は京都大学の新入生(二浪)、安部。さだまさしを敬愛し、好みの「鼻」を持つ女性にとことん弱く*1、ビンボーが板に付いた青年である。妙な縁で入った「京大青龍会」なる怪しげなサークルで、京都にある四つの大学(京都産業大立命館大・竜谷大・京大)で競われる「ホルモー」に参加することとなる。
「ホルモー」とは、二つのチームが「式神」である「オニ」の集団を操作して戦う競技である。4大学総当りで、勝利数が多いチームの優勝となる。京大青龍会は、ここ10年ほど最下位から抜け出せずにいる。戦いの様子は、自由惑星同盟銀河帝国間の戦闘における艦隊運用を想像していただければ近かろうと思う。とか言っても、「銀河英雄伝説」を読んだ人にしか通用しそうもないので、もう少し詳しく説明する。
1チーム10人が、各人100匹のオニを持つ。原則として、8人800匹が戦闘要員で、2人200匹は補給要員である。人間同士の肉体的接触は一切認められず、それを行った場合には即座に競技は停止され、接触した側の反則負けとなる。オニ同士が戦う、その方法を人間がコントロールするわけではない。得物を持ったオニ集団を、「集合」「離散」「紡錘陣形に展開」「敵右翼を突け」「左翼部隊に補給」などの「オニ言語」を用いて戦術を実行、布陣を配置・展開させるのである。勝敗は、一方のオニの全滅、または「降伏宣言」によって決する。手持ちのオニを全て失ったプレイヤーは、あるペナルティを受ける。それこそが「ホルモー」の「ホルモー」たるゆえんなのだ。
「え……そういう話なの?」と思われるかもしれない。そういう話なんである。しかも、こんな話のくせして、物語の世界はすごくすごーく「普通」。ホルモーだけが異世界で、他は全てどこにでもある普通の出来事ばかりなのだ。
ヘンな奴だけど何故か馬が合う、暑いけどエアコン買う金がない、好きな人に自然な態度が取れない、ムカつく奴ほど人望がある、女って分からない……あらゆる人種・時代の学生にも共通するであろう、真剣に低レベルな気質がいっそ気持いいほど横溢している。
そして、チーム内の人間関係にトラブルが生じた時、安部はこの競技の真の姿を垣間見ることとなる。オニを使役するとはどういうことなのかを、知ることとなる。……って書くとなんだかシリアスっぽいが、相変わらずへらへらと話は進む。
最終決戦の場面で、私は手に汗握った。ちょっと感動までして、涙をじんわりと滲ませてしまったりもした。ホルモーに参加しないまでも、見てみたくなった。しかし、参加せずにホルモーを見ることはできない。とりもなおさず、それはオニとの契約を意味する。うーん……やめとこう。


傑作ではない。冗長な部分が多く、説明文過多なくせして意味が分かりにくい箇所が多く、ステレオタイプな一部キャラクタの描き方に辟易する方もいるだろう。
しかし、もし馬が合ったなら、物語の世界に入り込み、奇妙に楽しい大学生活を体験できることだろう。


まあ、この話で一番不思議なのは、京都が舞台なのに誰も関西弁を使わないところだろうか。だーれも「こんにちはどすえー」*2とか言わない。言わないか。

*1:好みの「目」を持つ男性にとことん弱い私は、この点だけで主人公に肩入れしてしまった。分かる、分かるよー。

*2:

photo
サカモト 1 (1)
山科 けいすけ
竹書房 1999-05

by G-Tools , 2007/03/03