公爵家の相続人―シャーロック・ホームズの愛弟子

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公爵家の相続人―シャーロック・ホームズの愛弟子 (集英社文庫)
ローリー・R. キング Laurie R. King 山田 久美子
集英社 2006-09
評価

by G-Tools , 2007/08/21

出版社/著者からの内容紹介
ネロ・ウルフ賞受賞の人気シリーズ第6弾!
前作『エルサレムへの道』のパレスチナ密偵として活躍したアリーが、ホームズとメアリを訪ねてきた。彼はイギリスの貴族で、一族の苦境を助けてほしいと言う。二人が壮麗な館で遭遇したものは?


内容(「BOOK」データベースより)
ホームズとメアリは自宅に思いがけない客を迎えた。前作『エルサレムへの道』のパレスチナで、二人に協力して密偵として活躍したアリーだ。実は彼はイギリスの貴族で、同じ密偵だった一族のマフムードことマーシュ卿の苦境を助けてほしいと言う。二人はさっそくマーシュ卿の住むジャスティス・ホールを訪ねる。年代を経た壮麗な屋敷で、マーシュ卿は兄のボーヴィル公爵家の悲劇を語りだした…。殺人?陰謀?名門貴族の館を揺るがす悲劇。ホームズとメアリの捜査が暴いた真実は。

世の中には、シャーロキアンなる「シャーロック・ホームズのマニア」がいるそうだが、実物にお目にかかったことはない。子供の頃はルパン派の姉と対立するホームズ派ではあった(「ルパン対ホームズ」なんちゅうアホらしい企画物を書くルブランのせいだ)し、BBCドラマのホームズ(ジェレミー・ブレット)は好きだが、ベーカー街の住所すら覚えていない私は、名探偵コナンよりもシャーロキアン値は低い。
だが、ホームズのパロディ・パスティーシュものは好きだ。絶版になっているらしく、坂田靖子による書影すら入手できない「私が愛したホームズ」(タイトル違うかも)というホームズ×ワトソンのホモ・セクシュアル本も読んだぞ〜。「ワトスン君、もっと科学に心を開きたまえ」は改題・文庫化して、続編も出たのか。

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ワトスン君、これは事件だ!
コリン ブルース Colin Bruce 布施 由紀子
角川書店 2001-12

まただまされたな、ワトスン君! ワトスン君、もっと科学に心を開きたまえ―名探偵ホームズの科学事件簿

by G-Tools , 2007/08/21

という訳で、そんな邪心あふれるホームズファンが読んでいる、「ホームズの愛弟子」シリーズ最新作である。
シリーズ物を読み続けるには条件がある。まず、第一作がそれなりに面白いこと。主人公に魅力があり、先行きが気になること。第二作目が、一作目の作風を維持しつつ新展開を見せること。少なくとも数年に一度のペースで続刊が出ること。このシリーズは、その条件をほぼ満たしている。
第一作目から六作目の本書まで9年。ずっと読み続けてきたのは、半端なホームズファンだからではない。やや風変わりなヒロインと友人になりたかったからだ。メアリ・ラッセル。孤独な少女時代を送り、宗教学に打ち込む学生となり、隠居後のホームズの元で探偵学を修めた女性。そして、ホームズの妻でもある。ホームズとパートナーシップと家庭を築いている。互いを「ホームズ」「ラッセル」と呼び合う夫婦である。(ちなみに、ホームズが幼妻といちゃいちゃするシーンとかはない。ロマンス小説的な部分は皆無と言ってもよい。あってもいいのになあ。)
本書では、謎解きのパートが過去の事件に振り向けられる部分が多く、歴史の謎を解くといった趣が強い。その分、メッセージ色は濃厚で、戦争中理不尽に命を奪われるむごさ、残される家族の痛みなどが痛切に描かれる。また、舞台となるカントリーハウスの豪奢な様子も興味深い。しかし、「歯には歯を」的な終わり方は、カタルシスを満たされる一方で、「そういうことは許されない」って話じゃなかったっけ?という気分にもなった。「本当の自分」を解放するために、他の人の状況を束縛するのはいいのか?とか。なんて言いながらも、次作も楽しみはしているんだけどね。
ブツブツ言いつつ読んでいるシリーズ物は多い。読み続ける条件には、「惰性を許すある程度の不満」も必要なのかもしれない。