マジック・フォー・ビギナーズ

出版社 / 著者からの内容紹介
アメリ東海岸に住むジェレミー・マーズは、巨大蜘蛛もの専門の人気ホラー作家を父に持つ15歳の少年。毎回キャストが変わり放送局も変わる、予測不可能で神出鬼没のテレビ番組「図書館」の大ファンだ。大おばからラスベガスのウェディングチャペルと電話ボックスを相続した母親とジェレミーは、そこに向けての大陸横断旅行を計画している。自分の電話ボックスに誰も出るはずのない電話を何度もかけていたジェレミーは、ある晩、耳慣れた声を聞く。「図書館」の主要キャラのフォックスだった。番組内で絶体絶命の窮地に立たされている彼女は、ある3冊の本を盗んで届けてほしいというのだ。フォックスは画面中の人物のはず。いったい、どうやって? ジェレミーはフォックスを救うため、自分の電話ボックスを探す旅に出る……。爽やかな詩情を残す異色の青春小説である表題作(ネビュラ賞他受賞)。
国一つが、まるごとしまい込まれているハンドバッグを持っている祖母と、そのバッグのなかに消えてしまった幼なじみを探す少女を描いたファンタジイ「妖精のハンドバッグ」(ヒューゴー賞他受賞)。なにかに取り憑かれた家を買ってしまった一家の騒動を描く、家族小説の傑作「石の動物」。
ファンタジイ、ゴースト・ストーリー、青春小説、おとぎ話、主流文学など、さまざまなジャンルの小説9篇を、独特の瑞々しい感性で綴り、かつて誰も訪れたことのない場所へと誘う、異色短篇のショウケース。

表紙装画/塩田雅紀 本文カット/シェリー・ジャクスン 装丁/岩郷重力+WONDER WORKS。

  1. 妖精のハンドバッグ*1 ★★★★★(嘘つきおばあちゃんと、消えたボーイフレンドの物語。)
  2. ザ・ホルトラク ★★★★★(ゾンビとカナダ人はほとんど本物の人間に見えるという点でよく似ている、らしい。)
  3. 大砲 ★★★★☆(Qなぜですか。Aなぜだかは誰も知りません。)
  4. 石の動物 ★★★★☆(一番疲れた作品。憑かれた家とうさぎ大発生、そして家族それぞれの狂気の物語。)
  5. 猫の皮 ★★★★☆(母と息子のホラー話。)
  6. いくつかのゾンビ不測事態対応策 ★★★☆☆(ゾンビは差別ということをしない。ゾンビにとっては誰でも等しく美味である。)
  7. 大いなる離婚 ★★★☆☆(死んでいようが生きていようが、どうせ男女は相容れない……のかもしれない。)
  8. マジック・フォー・ビギナーズ ★★★★★(あなたは『図書館』を観たことがないが、観てみたかったなあと思うことだろう。私は観たくてたまらない。)
  9. しばしの沈黙 ★★★☆☆(幻想文学の形を借りて、再生し得ない家庭を描いているように思える。一番退屈。)



それぞれに感想を書こうと試みたが、そんなことをしていると自分の中身が抜けてしまいそうなので、好きな作品の好きな部分だけを抜粋する。

「こんな話、誰も全然信じないことはわかってる。それでかまわない。これを読んでるあなたが信じると思ったら、こんな話できるわけない。約束してほしい、こんな話、一言も信じないって。」(妖精のハンドバッグ)

「聞こ見ゆる深淵/オージブル・キャズム」(ザ・ホルトラク

「じゃあ僕たちどうしてここにとどまってるの?」とエリックは訊いた。「ジョガーとトラック運転手とゾンビとカナダ人しか来ないのに、どうやって小売の世界を変えられるわけ?」(ザ・ホルトラク

図書館員たちはみな棺や刀の鞘や司祭の隠れ部屋やボタン穴やポケットや秘密の戸棚や魔法のかかった小説のページの間に収まって眠っている。(マジック・フォー・ビギナーズ)

「父さんはろくでもない父親かもしれないけど、料理は上手なんだぞ。父さんのこと愛してるんだったら、少しはこのピザ食ってありがたく思うはずだぞ」(マジック・フォー・ビギナーズ)

体力のある時にお読みください。

*1:実際に使われている字は、米扁に青の下が円になっている