住宅考および人生設計妄想

引っ越したいなあ、と考えている。
今住んでいるアパートは、北側に壁があり、周囲が砂利敷きのため、湿気が抜けにくいらしい。夏におっそろしいほど蚊が湧いた。しかも、ベビーカーからこどもを降ろして、抱っこして中に入れて、ベビーカーも入れて……とかやっていると、呼んでもいないのに蚊がお客様になってしまう。家の中でパチンパチンと蚊を叩いていたら、かん子さんが真似して「えい、やあ」と拍手するようになってしまった。フラメンコ練習中か。室内には蜘蛛も良く出るが、益虫だと信じて見て見ぬ振りをしている。時々うららさんが壁からはたき落としているのも、見て見ぬ振り。最近はムカデも出た。菫には赤黒だんだらの毛虫が住み着いた。
私は、足が5本以上あるものと、足のないものが苦手である。今でこそ一人で対処するしかないので図太くなったものの、以前の住居で夜にゴキブリが出た時は、殺すまでは不安と恐怖で眠れなかった。(今でも広くない家の中に、コンバットを8個設置している。)こういう気の小さい人間にとって、飛ぶ虫・這う虫がたくさんいる住居というのは中々の苦痛である。
また、夏の台風の時に、強風でガタピシと鳴る音を聞きながら、軽量鉄骨というのは随分と弱々しいものだなあと思ったこともあり、堅牢性にも不安がある。(今までは鉄筋コンクリートの建物にしか住んだことがなかったのだ。)しかも、一階の我が家から上の家のベランダを見ると、不思議なことに小さく空も見える。一部が錆びて穴が開いているのである。時々錆びのカタマリが落ちてくることもある。
そんな訳で、引越ししたいなあ、と思っている。


虫が少なくて、鉄筋コンクリートで、猫飼いOKで、なおも希望を言うならば、風呂が追い炊きできるといいなあ。そんな住居はあるかしら?それが中々見付からない。
(虫の多寡と猫はともかく、)鉄筋コンクリートで風呂付の家なんぞ、今更珍しくもない。いくらでもある。それを見つけられないのは、私の予算に見合う物件が少ないためだ。
私のサラリーは多くない。薄給と言ってもいい。(薄給に賭ける青春。なんちゃって。)だが、時間はある。ほぼ毎日5時に退社できて、週末もかん子さんとのんびり過ごせる。余暇と給金が逆の配分よりずっといい。そのため、普段はこのことを不満に思うこともないのだが、家賃のことを思うと「あと2万円あったら」などとみみっちい金額のことを夢想してしまう。
かん子さんと二人で暮らすようになってから、それまでの掛け捨ての医療・生命保険を、死後の給付金が多いタイプに切り替えた。万が一の場合に、少しでも彼女の助けになりたいと思ったからだ。本当は、(学資保険として)貯蓄型の保険に入ろうと思っていたのだが、保険会社の担当者に、「保険でお金を貯めるよりも、現金で貯金した方がいい」と勧められて、金額の小さいそちらを選択した。その際、生活費に占める家賃の割合が高い、という話になった。「食費などでこつこつ節約しても、余り意味はありません。家賃を抑える方がずっと節約になります」とのことだった。確かにそうだ。不規則に切り詰めるよりも、規則的に削れる方がいいに決まっている。
現在の家賃は7万円。最近見に行った物件は、築36年と古いが、手頃な大きさで、内装も最新になっている。その家賃が8万円強だった。たっけえええええ。くどいようだが、築36年だぞ。今年で干支が3周目だぞ。関係ないが、私の姉と同じ年だ。それで8万以上するのだ。1万数千円、(時間やら出費やらあれこれ削れば)どうにかなるかもしれないが、毎月毎月どうにか捻り出すようなギリギリの生活をしてまで家賃を上げるのは危険である。
そんな訳で、7万円未満、または更新料なしで7万5千円までの物件(鉄筋コンクリート)を探している。親子二人と猫一匹は削れないが、いざとなったら二棹ある本棚と箪笥を各一つに削ってもいい。ああ、totoBIGが当たるといいなあ。そしたらもーすげーいい所に住んでやる。ライオンの口からお湯が出てるお風呂付きとか!(我ながら想像力がしょぼい。)


さて、月々の出費のことを色々考えていると、将来の人生設計が心に浮かんだりもする。
築37年の分譲マンションが1千万円程度で販売されている広告を見て、「ひょっとしたら賃貸に住み続けるより、こういう中古マンションを買っちゃってローンを払っていく方が、長期的出費は抑えられるのかな?(金利をテキトーに設定して計算してみると、確かに今より安い。)これに固定資産税がついて、あと買う時に取得税とか手数料とかがあるとしても、それでもずっと毎月7万円と2年毎に更新料払うよりいいのかも……」と心ユラユラ。
だけど、もしかしてもしかしたら、急に良縁が降って湧くかもしれないんだし、そういう時にローンを背負っているのってどうなのかしら?とか起こってもいないことで心配になる。お見合いして、そこで「中古マンションのローンが後15年残っています」とか言ったら、「×1子連れの上借金持ちか」ということにならないだろうか……などと悶々。
悩んで父に相談した所(勿論お見合い云々なんて妄想話はしない)、「こんなに古い物件だと、あと数年で建て替えになるんじゃないの?」と言われた。盲点(気付けよ)。買ってすぐに建て替え費用を拠出するなんて無理だ。予定もない見合いのシミュレーションしてる場合じゃない。


だけど、人生のパートナーは欲しいなあ。私と一緒に家賃とかん子さんの教育費を払ってくれる人がいたらいいのになあ。
って、お前の言うパートナーってのは金づるなのか!と叱られそうだが、違うよ、全然違うよ、と言い訳させてもらう。金づるとは思っていない(仕事やめたい、養ってほしい、とかは考えていない)けれど、経済的な支えを求めていることも確かにある。でも、金銭的負担を共有するのは生活の一部であって、それは同居に伴う必然的要素なのよ。住居費を含む生活費は、誰だって払うでしょ。共有すれば個々人の負担が減って合理的。かん子さんの教育費だって、そりゃ大部分は私が持ちますよ。だけど、私のパートナーで男性であるならば、それはつまりかん子さんのお父さんなんだから、お父さん分として気持ちを出してほしいんですよ。実の子でもないのに金が出せるかなんていう人は、お断りだあ。(と、また意味のないシミュレーションに熱くなっている自分に気付く。)
そして、経済的部分以外こそ、私があったらいいなあと思うものなのだ。贅沢しなくていいから、愛情と敬意を感じつつなごやかに暮らしたいなあ、助け合って色んな問題を切り抜けて行きたいなあ、「今日のら猫4匹も見ちゃったよ」とかどうでもいい会話をして、おいしいねーと言い合いながらご飯を食べて、かん子さんの出る運動会に参加して、時々家族旅行に行ったりして、星を眺めてオリオン座しか分かんないやとか言いながら夜の散歩をしたりしたいなあ、などと夢想しているのである。勢い余って星座早見板を買っちゃったぞ。これだけじゃ意味ないな。
しかし、同年代の夫婦を見ていると、ひょっとしたら夫というのはいるだけでストレスの要因になる存在で、「夫がいたらなあ」と思っているだけの方が実は幸福なのだろうか?とも思う。(多分、男性諸氏は逆の事例を考えることもあるんだろうな。)事実、私は不幸な結婚というものを一つは知っているのだ。その割に楽観的だとも言われるが、経験を忘れて無用心になるのはいけないな。
幸せな夫婦に聞いても、問題続出のカップルに尋ねても、それぞれの答えは私のものにはならない。互いにストレスに思わぬ人を見出せるのが理想だが、果たしてそんなmade for each otherな関係というのは存在しうるのだろうか。多少のストレスは必然として、生活の利便性を求めるのが正しいのか。そんな功利的でいいのか?いやいや、それは功利ではない。などと、ホントに「今考えてもしょーがないでしょっ」と言いたくなるようなことをうだうだと考えている。


住居について考えるということは、つまり家庭について、更に人生について思索することに繋がるらしい。私の人生は、このままアレコレ妄想することに尽きるのかもしれない。
ともあれ、引越しだけは来年の夏までにしたい。未来の夫の都合を考えてもしょーがないからな。