日本の名詩、英語でおどる


内容紹介
ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し」と、萩原朔太郎は歌った。遠いからこそ魅力的に映ることがあり、好奇心に駆られて近づきたくなる。ぼくにとっては、翻訳作業が究極の接近で、日本語の詩と向き合って呼吸を合わせ、ふたりで英語の大ホールへと踊り出す。最初のぎこちなさを乗り越え、ステップの練習を重ねるうちに、詩はだんだんとパートナーのぼくを離れ、やがて自分ならではのダンスを繰り広げる。・・・・・・
この本に登場を願った26人の作品は、どれも現代と直結している。様子もやり方も違う世界の産物に感じられても、耳を澄ませば今の暮らしに迫って、語りかけてくる。ぼくが添えた英訳とエッセイが、原作の新しさに気づくきっかけとなれば幸いだ。(「まえがきにかえて」より)

収録作品詩人一覧

萩原朔太郎山村暮鳥/山之口 貘/茨木のり子石原吉郎中原中也/高田敏子/小熊秀雄菅原克己竹内浩三/岩田 宏/まど・みちお与謝野晶子高村光太郎石垣りん高木恭造/鶴 彬/堀口大學柳原白蓮金子光晴/三井ふたばこ/中村千尾/壺井繁治/大塚楠緒子/黒田三郎室生犀星

★★★☆☆
正直言って、充分に楽しめたとはいえない。それは、本作の質が低いためではなく、私が日本語を理解するのと同程度に英語を理解できないためである。それでも、ビナード氏の訳出苦労話などは大いに勉強になったし、また興味深く楽しむことができた。
さらに、今まで知らなかった詩人の作品を多く読めたのも眼福であった。特に印象的だったのが、漱石の思い人とも言われる大塚楠緒子の「お百度詣」*1。このタイトルを、訳者は「pace the path to the shurine one hundred times」としている。walkを使うとただウロウロしているようで、詩の切迫感を表現できないため、paceという語を用いた……という訳者の真摯な姿勢がすばらしい。
翻訳によって、却って日本語が定義されてしまうことがある。(「うつくしいはし」を「a beautiful bridge」と訳したら、そこにお箸の入る隙はなくなるのだ。)そのようにして現れる違和感として、幾つかは解釈に疑問もあるが、見解・意見の分かれるのも詩の醍醐味。全て楽しめた。

*1:ひとあし踏みて夫(つま)思ひ/ふたあし國を思へども/三足ふたたび夫(つま)おもふ/女心に咎ありや/朝日に匂ふ日の本の/國は世界に只一つ/妻と呼ばれて契りてし/人は此世に只ひとり/かくて御國と我夫(つま)と/いづれ重しととはれなば/ただ答へずに泣かんのみ/お百度詣ああ咎ありや