千利休

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千利休
清原 なつの
本の雑誌社 2004-12

by G-Tools , 2008/02/18


出版社 / 著者からの内容紹介
茶の湯とは何か、わび茶とは何か、
そして千利休とは
いったい何者だったのか?
子供から大人まで楽しめる
清原なつの千利休伝。


哲学的なSF系ファンタジーを描く漫画家として、性別を問わず幅広い読者に親しまれている清原なつの。その清原なつのによる(わび茶)の完成者・千利休の伝記漫画です。財力も権力も手に入れながら、茶の湯の境地も開拓しつつ、しかし常に「いったい自分は何者なのか」を自問し激しく葛藤し続けた人間・千利休を、清原なつのならではのソフトでコミカルな筆致としみじみする思索的な深みをもって描いています。
著者自身による解説(歴史的なイベントや茶器・茶碗など)も充実しております。



★★★☆☆
私は清原なつのが好きだ。「哲学的なSF系ファンタジー」と感じたことはないが、最も好きなSF作家を尋ねられたら、迷わずこの人の名を挙げる。最初にお目にかかったのは「愛と性のシリーズ」という(作者自身も述べるとおり)こっ恥ずかしい副題の付いた、「ぶ〜け」連載時の「花図鑑」。SFとは謳っていなかったし、当時の私はそれをSFとも思わなかった。しかし、今にして思えば実にサイエンスフィクション。生物学だってサイエンスだもんね。*1
そして、本作も史上実在の人物を、史実に基づいて描きつつも、その視点は実にSF的。というか、決して客観的になることなく、常に作者が覗き見ているものを伝えているように思えるという点では、タイムトラベル物と位置づけるのもさほどハズレでもないかもしれない。
史実を扱う「時代物」作品は、何故か男性作家の手によるものが多い(と思う)。それに慣れた目で本作を読むと、ある意味「女性的」な彼らに強い親しみを覚える。別にキラキラしてるとか、ナヨナヨしてるとかではない。俯いた横顔の描写が多く、読者に直接語りかけることの少ない利休(宗易)。美意識が高く、物を利用はしても物にとらわれない信長。あっさりした決断力と、コンプレックスに裏打ちされた執念深さを併せ持つ秀吉。彼らの姿に共感できる部分が多いために、丸みのある描線も相まって親近感を覚えるのだ。
(出版までに紆余曲折があったせいか?)参考文献を一切記さないとしている点だけが惜しい。

*1:それにしても、当時のぶ〜けはSF度が高かったなあ。水樹和佳の「イティハーサ」、水星茗の「エチエンヌシリーズ」、鈴木志保の「船を建てる」……うーん、懐かしい。