ひとり上手な結婚



ひとり上手な結婚ひとり上手な結婚
山本 文緒 伊藤 理佐

講談社 2010-08-20
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Amazonより/内容紹介
どうしたら結婚できるの? 続けられるの? 結婚しなきゃいけないの?


それぞれ2回目の結婚をした人気恋愛小説家・山本文緒と新婚漫画家・伊藤理佐。結婚についてのさまざまな悩みに、やっちまった2人がぶっちゃけます。


「婚難な時代」のバイブル登場。結婚エッセイ&漫画の最新、最強、決定版!


「生活費どうしてる?」「夫の家族が嫌い!!」「夫が不潔?」「やきもち焼き、どうにかして!!」「結婚指輪、しないとダメ?」「酒好きでない人を好きになってしまった」「食材下手は結婚できない?」「実家に行ったことないってどうよ?」「力の強すぎる妻から助けて!」「エアコンをつけない彼と大ゲンカ!」etc.(目次より)


巻末ゲストトークには、漫画家のけらえいこさん(『セキララ結婚生活』『あたしンち』作者)が登場!


山本文緒(やまもと・ふみお)
1962年神奈川県生まれ。’99年『恋愛中毒』(角川文庫)で吉川英治文学新人賞、’01年『プラナリア』(文春文庫)で直木賞を受賞。’08年には6年ぶりの小説集『アカペラ』(新潮社)も刊行した。自身の一度目の結婚→離婚については『そして私は一人になった』に、王子との再婚及び闘病については『再婚生活~私のうつ闘病日記~』に詳しい。新装版の『かなえられない恋のために』(3冊すべて角川文庫)では、解説を伊藤理佐さんが執筆。


伊藤理佐(いとう・りさ)
1969年長野県生まれ。’05年『おいピータン!!』で講談社漫画賞、’06年同作と『おんなの窓』(文藝春秋)、『女いっぴき猫ふたり』(双葉社)で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。『女のはしょり道』『おいピータン!!12』『おいクロタン!!1』(3冊すべて講談社)、『おんなの窓3』(文藝春秋)、『ヒゲぴよ2~鳥類の奇跡!?~』(集英社)、『あさって朝子さん』(マガジンハウス)も好評発売中。’10年1月に無事女児を出産。現在は一部仕事を除いて育児に専念中。

「おんなの窓」を偶然読んだのがきっかけで、まんが家の伊藤理佐にハマっている。最近読んだのがこちら。
小説家の山本文緒(作品未読)との共著で、 「IN★POCKET」*1に寄せられる読者の結婚に関する悩み相談に答えるという体裁である。山本は文章を書き、伊藤はまんがで回答し、イラストを添える。お題に対して、「『いっせいのせ』でやるので」打ち合わせなし、妙なライブ感覚とでも言うべき効果が出ていて面白い。
また、二人が回答する姿勢が、ふざけているようで、その実まことに真摯で、なるほどなぁと膝を打つものが多い。一番興味深く読んで感心したものを下記に抜き書きする。

「結婚ってどうやってするの?」
連載をいつも愛読しています。しかし質問がすべて「結婚できる人たち」によるものだということに時折胸が痛みます。私は現在45歳で独身、勤務先も大手ではなく、見た目も地味。おしゃれも苦手です。お酒や美味しいものは好きだし、男友達と飲みにはよく行くのですが、女性を「誘う」以前に出会わないし、「このまま結婚しないんだろうなあ」とぼんやり思っています。世間の人はどうやって結婚しているのでしょうか?
(45歳 良平 未婚)

これに対する山本の回答は、以下のように始まる。

結婚のお悩みの話をする前に、私の悩みを聞いて頂けますでしょうか。
私は大変に運動神経が鈍いです。それはそれはひどいです。

これに続いて、子供の頃の体育の時間の辛さをほぼ一ページ語り、大人になっても、ちょっとした交流にスポーツは現れるのよ、と切々と訴える。

ああああああっ!と私は頭を掻きむしって叫び出したい気持ちになりました。もし私に人並みの運動神経があれば!そうしたら酒井さん*2と文芸女子柔道部をつくれるのに。そうしたらすごく楽しいに違いないのに!
でも私にはできそうもありませんでした。努力すればできないことはないと思います。でも私にはたぶんできない努力です。大袈裟な話ではなく、私はスポーツをしない人生を選んだのだったと、改めて思い出しました。

私の運動神経の悩みが長くなりましたが、さて、どう思われましたか?そんなにやりたいなら努力して練習すればいいじゃないか、と思いましたか?それとも、人と親しくなる方法は他にもあるのだからそんなに苦悩することじゃないと思いましたか。
もうお分かりかもしれませんが、結婚したいとか、どうしたら結婚できるかとか、そういうお悩みも基本的には同じようなことなんじゃないかなと思うんです。

結婚できるかどうかは、いい仕事に就いているとか、お洒落かどうかとか、そういうこととはまったく関係ありません。

結婚できている人はもともと“結婚神経”に恵まれているだけだと考えたらどうでしょう。もともと運動神経のいい人は、そんなに努力しなくても各種スポーツを楽しめるし、普通程度の運動神経でも跳び箱くらいは飛べるのと同じように。

そうして、山本は結婚を「向き不向き」で整理し、適性の少ない人間が、それを人生唯一の幸福・目標に定める意義を問うている。もったいないじゃないですか、あなたは一人でも充分に生活を送ることができるんですよ、と呼びかける。

工夫し努力し諦めなければ結婚できると思います。そこまでするほどでもないというのなら、あなたの人生に結婚はそんなに必要なことじゃないんですよ。ちょっとだけ人が羨ましいだけなんですよ。大勢の人ができていることを自分ができなくて、少し不安なだけなんですよ。いっそのこと諦めちゃいませんか?

名言だと思う。孤独は自由であり、また権利でもある。こだわらず、諦めることで得られる幸福もあるのだ。
ところで、この回の伊藤理佐の答えは、「結婚しても幸せになるとは限らないから、大丈夫大丈夫」(とは書いてないが、意訳)*3。この答えもイイ。
私が良平さんにアドバイスを求められたなら、この二つを合わせたものになるだろう。したけりゃアグレッシブに頑張れ。ただし、それで成果が出ても、なんら幸福を保証しない。でも、大丈夫。ダメならサクッと別れりゃいーのよ。
かような私のやけっぱちな姿勢とは異なるが、二人とも自らの経験をベースに、含蓄ある回答を寄せている。結婚に関する悩みがある人も、ない人も、楽しく読める良書であると思う。久しぶりにオススメ。★★★★☆

*1:講談社発行の月刊文芸PR誌・文庫情報誌

*2:「負け犬の遠吠え」で名を馳せた、エッセイストの酒井順子

*3:これは、伊藤の夫吉田戦車が、新妻伊藤に贈った言葉