強盗こそ、われらが宿命

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内容紹介/Amazonより
全米一、銀行強盗発生率の高い街であるボストン郊外のチャールズタウン。ここでは強盗は誇り高き家業だ。そんな街で生まれ育ったダグは、幼なじみを率いて、現金強奪をすることに何の疑問も抱いていなかった。だが、ある銀行襲撃をきっかけに、何かが変わった―銀行の女性支店長クレアに恋をしてしまったらしい。深入りできない苦しい恋に悩みながら、次の襲撃の準備を進めるダグ。一方、FBIは着々とダグたち一味に捜査の手を伸ばしていた。加害者と被害者、追う者と追われる者が、クレアを軸にして出会ったとき…。巧みな人物描写とプロットで読ませる、傑作ミステリー。

来年2月公開予定の映画「ザ・タウン」。間もなく開催される東京国際映画祭のクロージング作品でもある。ベン・アフレック監督第二作目。アメリカでは興行成績が良く、評価も中々とのこと。

主演は、監督兼任のアフレック。共演者の中で、私が一番注目するのは、ダグのかつての恋人を演じるブレイク・ライブリー。「旅するジーンズ」シリーズで、ブリジットを演じた彼女が、難しい役をどのように扱うのかに興味がある。

その原作が、本書「強盗こそ、われらが宿命」である。
私は、まず映画の予告を見て、しかる後に本書の上記紹介文を読み、内容が全部分かったつもりになって小説に入ったが、とんでもなかった。私がこの先、最後のページまで全ての梗概を語ったとしても(そんなことはしませんが)、まだ読む価値がある。
非常に良くできたサスペンスであり、またラブストーリーとしても切なさバクハツでとてもよろしい。男女の駆け引きや、告白シーンなんぞ、読んでてゲンナリしやすい私だが、苛酷な状況と、登場人物それぞれの心情を思い、しみじみとした思いを噛み締めた。「今」の美しさと、「これから」の残酷さの狭間で、このような物語世界を構築できる作家の力量に酔った。
特に、ダグが自らの内なる陥穽から逃れようともがく下巻後半からの、たたみかけるような展開が素晴らしい。群像劇的な文体が、人物描写を際立たせ、ドラマチックな場を形成している。実に、良い作品。★★★★☆
面白かったので、続けて作者の別の作品も読む予定。


本作の舞台は、1996年のボストン。今から十数年前の世界のはずなのだが、大して時代を感じない。だが、新作として名を挙げられる映画のタイトルは別だ。「もうすぐ上映される『ツイスター』という竜巻映画の宣伝を見たことある?」ああ、あの年か、とかつてを思い起こす人もいるだろう。「インデペンデンス・デイ」「ザ・ロック」の年だ。どう?私は色々思い出して、悶絶しそうになったよ。作品には関係ないが、映画のタイトルには、何か魔法の呪文のような力がある。時間を戻す力がある。
映画のタイトルは、作中他にもたくさん出てくる。FBI捜査官が「セルピコ」や「フェイク」について語り、「ヒート」を想起させるシーンもある。巻末の解説によれば、ホーガンはビデオショップの店員だったとのこと。映像的描写もむべなるかな。映画化もまた、宿命だったのだろう。