短評:人質

人質 (講談社文庫)人質 (講談社文庫)
チャック ホーガン Chuck Hogan

講談社  1997-11
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内容紹介/Amazonより
 反逆の森に轟く銃声。息づまる人質救出作戦!モンタナ州の辺境で山小屋に立てこもる逃亡犯。一進一退の攻防。遂に惨劇の嵐が巻き起こる!

 モンタナ州の辺境の森に銃声が轟いた。連邦逃亡犯が子供を含む人質を盾に山頂の山小屋に籠城。地元警官、FBI、連邦執行局の特別チームが相次いで集結、一進一退の攻防が続く。交渉、駆け引き、脅し、あらゆる手段で人質奪還をはかるバニッシュ司令官の苦悩は深まる。息詰まる人質救出作戦を描くパニック大作!

  • 上記紹介は小説の内容に沿ってはいるのだが、正確ではない。逃亡犯が自分の子供を含む家族で山小屋に篭城し、それが結果的に人質を取られたも同然の状況になり、強行突入ができない。というのが実際のオープニング概要だ。子供たちは、FBIにとっては人質であると同時に、自ら銃火器を扱う攻撃者でもある。中々面白い設定だと思うのだが、上記及び本書裏表紙あらすじには、無力な人質であるかのような表現しかないのが残念。
  • そういう側面を反映してか、邦題は「人質」だが、原題は「THE STANDOFF」。手詰まり・膠着状態、孤立・よそよそしさ、などの意味がある。内容は当然原題に近い。*1
  • 機械的くじ引きのようにして選抜されたFBIの現場指揮官バニッシュは、過去の事件で心身に深い傷を負ったまま立ち直っていない。それを支えるはずの捜査官は、ある者は保身にのみ徹し、時に彼を裏切り、またある捜査官は彼を監視し続ける。そんな中、自他と闘うバニッシュの苦悩と混乱が本作の主軸となっている。過去の事件がいかに彼を引き裂き、それが以降の人生に影響しているのかを語るパートは、暗い魅力に満ちている。
  • 地元警察と保安官は対立しており、白人優位の中で奮闘するインディアン保安官の描写が興味深い。*2また、出世を夢見てバニッシュに近付く若手警官の存在が、ストーリーに味わいを添えている。立て篭もっている犯人と、そもそもの逮捕劇にも何か陰謀めいたものがありそうだ。さらに、地元の住人の中には、白人至上主義の犯人に同調する勢力がおり、交渉現場近くで別の混乱を引き起こす。ということで、あれこれ面白いパーツが多いのだが、多すぎるのである。え?あれはどうなったの?みたいに放置されている要素もあるような気がする。結果として散漫な印象。
  • 本作は、ビデオ店アルバイト26歳のチャックによるデビュー作。「強盗こそ」で感じた、生き生きした群像劇を扱う手腕、映像的な描写力の萌芽を感じるも、読み終えて爽快とはいかなかった。

*1:英和辞書wisdomの例文がすごい。「The man was killed during a standoff with FBI agents.(その男はFBIとの膠着状態の中で殺された)」「the standoff between father and son(父と息子のよそよそしさ)」何か、「THE STANDOFF」のために書かれたようだ。てゆーか、この小説が例文的定型なのか?

*2:インド人ではなく、アメリカンインディアンである。1997年発行なのだが、当時は「ネイティブ・アメリカン」という翻訳表現を選択する必要はなかったんだっけ?それとも、原文が「インディアン」?