死体置場は花ざかり

死体置場は花ざかり (ハヤカワ・ミステリ文庫 43-1)

死体置場は花ざかり (ハヤカワ・ミステリ文庫 43-1)

雰囲気からしてウォーレン・マーフィの「トレース」シリーズのようなものを期待していたのだが、やや肩透かし。おそらくマーフィーが影響を受けた作品の一つではあるのだろうが、主人公アル・ウィーラーの魅力が今一つ理解できないのだ。金髪美人にモテモテの一匹狼の刑事で、優秀だけど上司の受けはさほど良くない。スポーツカーをぶっ飛ばし、冴えない同僚や、気の合わぬ不美人を馬鹿にする。なんつーか、「ひねったカッコよさ」が典型的過ぎてつまらない。追従者の多い古典の宿命、と言えばそれまでなのだが。
捜査に苦労はしているようだが、応援一つ呼んでおけば問題はないのに……という状況でも一人で突っ走っているので、基本的には同情できない。
しかし、何よりも気に障るのは田中小実昌氏の訳文である。「さいしょ」「ちかく」などの標記が、ひらがなだったり漢字だったりするのはどういうこっちゃ。「おれは、じっと、保安官の顔をみつめ、もったいぶって、いった。」のような文章を読むと、わたしは、すこし、息切れが、するんですけど。悪文というほどではないかもしれないが(本当は言いたいが)、とにかく読むのに骨が折れた。
筋自体は面白いが、推理がさほど困難でない割に、主人公が魅力的でないという点で減点1。あーそーだよ、男の趣味の問題だよ。★★☆☆☆。古過ぎるのか、表紙画像を入手できず。(図書館のシール付きをスキャナで取るのも憚られるし。)