SAW(ソウ)

SAW ソウ DTSエディション [DVD]

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男が目覚めると、そこは閉ざされた部屋。足が鎖でつながれて、身動きが取れない。部屋の反対側には同じようにつながれた男が一人。そして、二人の間、部屋の中央には拳銃を握り締め、血にまみれた死体が一つ。部屋の中に隠されたものが一つ一つ見付かっていく。小さな鋸。すり替えられた家族の写真。弾丸一つ。男の一人は言う。「この鋸は、鎖を切るためのものじゃない。逃れたかったら足を切れ、ということなんだ。」
密室から二人は脱出できるのか?犯人は誰なのか?その悪意はどこから来るのか?1時間43分をこれほど長く感じたことはない。恐怖と狂気に満ちた一本。古ビルのトイレに入れなくなってもいいのなら、ぜひご覧あれ。


ところで、私は極度の怖がりだ。
子供の頃、近所にある墓地の前を通るのが怖いと母に言ったところ、こう返された。
「死んだ人は何もできない。怖いのは今生きている人間の方。」
お母さんありがとう。おかげで怖いものの幅が広がりました。
人影見えぬ暗い夜道では全力疾走。小学校ではトイレが怖くて一人で入れず、漏らしそうになったことは一度ではない。水が滴る音に怯え、軋むドアに飛び上がり、部屋の隅の暗がりが注視できないくせに気になり、一人で風呂に入る時は家中の照明をつけている。
ホラー映画を最後に見たのは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」。目を閉じるのも、開けているのも怖い……ということで、不眠症になった。それを解決するべく、公式サイトや解説本をじっくり読んだら、益々怖くなった。もう森になんて行けない。それ以来「最終絶叫計画」ですら、事前調査なしには見る気にならないほどである。
そんな人間が、何故この映画を一人で見に行ったのか。(家人は「怖い映画ヤダ」と同行を拒否。)それは、「衝撃の結末」「驚異のどんでん返し」「誰も思いつかなかったこのラスト」とかいう煽り文句を前にすると、理性も恐怖も経験もどうでも良くなってしまうからだ。「してやられた」と思いたくてしょうがないのだ。新しいトリックで私を騙してくれ!と待ち望んでいるのだ。
私を殺したい人がいたら、上記のフレーズを盛り込んだ招待状を送ってくれれば、雪山の山荘にでも、絶海の孤島にでも、ほいほい誘い込まれてしまうので参考にしてほしい。そのかわり、ありきたりなトリックだったら許さないからね。


さて、極力事前情報を見ないようにして臨んだのだが、それでも二、三の感想はちらっと見聞きしていた。
ある人は「気持ち悪い映画」と言っていた。全面的に同意する。
登場人物で友達になれそうな人はいない。重低音で恐怖感を煽る音楽は「ジョーズ」の比ではない。何かをほのめかすようなアングルが怖くて、スクリーンのどこを見れば直接的恐怖を避けられるのか探してしまう。画面も隅から隅まで気味が悪い。子供部屋のぬいぐるみは影の加減なのか、口を裂いて笑っているように見える。秒針が進む音は大き過ぎる。間接照明が暗がりを作り過ぎる上に、黒を多用したインテリアが怖い。壁の落書きが不気味。北欧映画のようにコントラストの強いフィルムが、その全てを強調する。
またある人は「ミステリとしては大したことはない。犯人はすぐ分かる。」と言っていた。
大したことがないかはともかく、確かに途中でそうと匂わせる部分はあった。しかし、犯人が分かったからと言って安心できるわけではない。どちらかというと、全てが明らかになってからのほうが怖い。
前述の「ブレア……」とは異なり、この映画に超自然的要素はない。全て人間の悪意による恐怖である。そのため、消化不良な要素はほとんどなく、私同様ミステリを求めて足を運ぶ人も堪能できる作品だと思う。少なくとも、私は「してやられた」。満足。


いつもはエンドロールを最後まで席を立つことはない。しかし、今回は早々に劇場を後にして、走るようにして電車に乗った。
照明がついたら最後の一人、なんて想像しただけで怖いじゃないか。しかも、ドアが開けられなかったら……?背後で私の名を呼ぶ声がしたら……?★★★★☆