ミステリ十二か月

ミステリ十二か月

ミステリ十二か月



小説家にして稀代の「ミステリ紹介者」北村薫による、古今東西ミステリ案内。2003年1〜12月の一年間に渡って読売新聞に週一連載された「ミステリ十二か月」(「北村薫のミステリーの小部屋」を改題)及び、各月を振り返る「本棚から出てきた話」、挿絵を担当した大野隆司、作家の有栖川有栖との対談を盛り込んだ四部構成となっている。
この人は自分の好きなものを人に勧めるのが本当にうまい。特に、「ミステリ十二か月」は子供を主たる対象としているため、実に平易で分かりやすく書かれている。殺人と犯罪を扱う文章としては、破壊的にのどかで、そのくせ好奇心をくすぐること孔雀の羽の如し。(ちょっと違うか。)また、十二ヶ月を振り返りながら新たに書かれた「本棚から出てきた話」には、ミステリ上級者もきっと満足できる詳細な作品分析や、より詳しい紹介を読むことができる。私はメモを取りつつ本書を読み、「読みたい本リスト」を作った。児童書から未読の超有名作品まで、この人の口上にそそられた十九冊である。
口がうまいと言っても、巧言令色少なし仁……というのとは違う。この人は本の紹介をする姿勢が、実に誠実なのだ。大野隆司との対談の中で、「ネタを割らずに、それで読ませる力を持つ紹介の仕方を考えなければいけない。」と、その努力を語っている。「一点で全体を伝える、そういううまいツボみたいなところを示すのがいい紹介文なんでしょうね。なかなか、そううまくはいきません。」けだし名言である。見習いたい。★★★★☆