図書館の神様

図書館の神様

図書館の神様



amazonで「おすすめ」されたので読んでみた、初めての本。Amazon、なぜこれを私に?
全百六十五ページ。四十五分で読み終えた。さて、その感想は……amazon、オヌシ結構やるな。


主人公は二十二歳。訳あって都会の実家を離れ、海の見える町で大学を卒業し、そのままそこの高校の講師になったばかり。大学では文学を専攻したし、担当教科も国語だけど、「文学なんてまったく興味がない。小説どころか雑誌や漫画すら読まない。」。それなのに、何故か文芸部の顧問になってしまった。部員は三年生男子生徒、垣内君が一人。「いかにも運動向き」に見える垣内君は、実際に過去にはサッカーで有望視されていたらしい。故あってバレーボールを諦めた主人公は、彼が「サッカーよりも文学の方が楽しそう」という理由で文芸部にいることが信じられない。「ボールを追いかけて走り回ることより、本を読むことが愉快なわけがない。」
彼女には恋人がいる。大学二年の時に知り合った、ケーキ教室の講師だ。いつでも真剣で、常に何かに対して一生懸命だ。そして、彼には妻がいる。「でもいい?続ける?俺は続けたい。愛してるから。」
彼女には弟がいる。二時間以上掛かる道程をものともせず、時々姉に会いに来る。やさしく明るい精神の持ち主で、彼女の害になることを一切しない。
平穏に過ぎる日々の中で、状況は少しずつ変化していく。垣内君との会話に感化されたり、恋人の現実的な冷たさに不思議な感覚を覚えたり、弟の言葉に助けられたりして、彼女自身が変わっていく。夏の暑さ、秋の美しさ、冬の寒さ、そして春の別れ。


心に傷を持つ若い女教師。身近には男が三人。一人は生徒。一人は不倫。そして一人は弟だ。にっかつロマンポルノなら、喜んでシリーズ化しそうな設定だが、ここで描かれる登場人物の淡々としているさまときたら、スケベな予断など許しようがないほどである。全員の血圧を合わせても、もしかしたら二百にもならないかもしれない。体温も低そうだ。
そこには濃密な人間関係や、激しい感情のぶつかり合いはない。主人公は職務に熱意なく、恋愛も状況の割りに深刻でなく、傷付いても泣くのは一行以内で終わる。過去の心の傷を告白するシーンも、相手の反応は「ふうん」と言って「笑った」で終わる。しかし、それはネガティブな描写ではなく、そのように表すことで彼女の痛みが和らいでいくようで、実にすがすがしいのである。
文体の軽妙さも特筆すべきだろう。現実の肉体が逃れられぬ「澱(おり)」を感じない、そういう軽さだ。弟や垣内君と共にバスケットボールに興じるシーンですら、どこか涼しさを感じる。汗の臭いや、むさくるしい体温を感じない。病に苦しむ描写にも、読者に痛みを共有させるほどのえぐみはない。それを作者の弱みと取る人もいるかもしれない。しかし、私はこの突き放される感覚が気に入ってしまった。かつてのよしもとばななを批判的に評した言葉「肉体を持たない文学」を、作者は美しく踏襲しているのだ。軽いの結構。上等である。
まあ、文体・構成・エピソードまでばなな風なのは、ばなな影響下に育った世代の宿命だろうか。いずれ他の作品も読んでみようかな。★★★☆☆
追記:東京事変椎名林檎のバンド)の「群青日和」に、本書のある部分とよく似たフレーズが出てくる。椎名林檎は読書家らしいが……読んだのか、偶然か?