ぬしさまへ

ぬしさまへ しゃばけシリーズ 2

ぬしさまへ しゃばけシリーズ 2



しゃばけ」に続く第二作目。今回は短編集である。
物語は前作と同じ設定で続いている。
主人公は日本橋で威容を誇る廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の若旦那、一太郎
幼時より病弱で、十七になった今でも寝付くのが珍しくないほど病弱な彼を、脇で支えるのが、妖怪でありながら人の姿で手代を務める佐助と仁吉。
周囲を固めるのは、その他様々の魅力的な妖怪たち。特に、姿は恐ろしげだが、甘い物好きで若旦那に褒められるのが大好きな鳴家(やなり)達の描写にはいつも笑みがこぼれる。
更に、「大福を砂糖漬けにしたよう」に病弱な息子を甘やかす両親、茶菓子目当てに日参する岡っ引き、若旦那の幼馴染で致命的にあんこ作りがへたくそな菓子屋の跡取り息子……人間たちも相変わらずだ。なお、上記描写に見られるように、各種和菓子も多数登場するので、渋茶にお好みの饅頭など用意してお読みになるもまた乙かも知れぬ。


思えば、前回を導入と考えるならば、このシリーズは実に短編向きである。
既に下地が魅力的なので、趣向を凝らして異なるネタを散らすだけで、安心して読める作品集になるのだ。
短編集になった分、豪華なほどだ。ヒッチコックのとある名作風あり、ともすればSFを思わせる壮大なロマンスあり、また前作のサイドストーリーあり……てんこもりである。
一風変わった探偵小説とも言える本書は、主たる要素に謎解きを扱っている。床から出られぬことの多い主人公に代わり、妖怪たちが現場調査をする。人間が感じ取れぬことを発見できるが、人間なら当然気になるようなことには無頓着。結局、全体をまとめ合わせて推理できるのは、安楽椅子探偵ならぬ「布団探偵」である若旦那ということになる。それを見る周囲の人は思うのだ。「利発なだけに、寝込む性でさえなければ」と……。
妖怪頻出すること百鬼夜行の如し、ではあるが、そこに描かれるのは人間の弱さ、醜さ、残酷さ、そして悲しさである。それでも読後感は爽やかですがすがしい。第三作「ねこのばば」も楽しみ。
ワンパターンなまま進むのは少し怖いが、一方このままの和菓子のように甘く、それでいて渋茶のようにほろ苦くもある世界から、まだ離れたくない気分でもある。★★★★☆


ところで、本書の書影をamazonから頂こうとしたら、実物と色が違う。amazonのスキャナがそろそろ寿命……という頃に取られたのだろうか?

写真右がamazon。左がほぼ実物と同じ色。これはさほどでもないが、これっくらいになると結構すごい。

日焼けした古本みたいだ。