日常の怪異

朝の通勤電車。
途中から乗ってきた中年男性が、私の前に立つ。
文庫本を、顔の前まで上げて読んでいる。
呼吸する時に音を立てる。
息を吐く時は、「んんー」か「ふううー」と声を出す。
息を吸う時は、「しゅううー」という音がする。
んんー、しゅううー、ふううー、しゅううー……。
そして、息をするごとに、短いトレーナーのすそから見える、毛だらけの丸い腹が動く。
目の前で。


二駅で降りてくれて助かった。