海賊岬の死体

海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

型破りなほどフレンドリー。それが、「モーズリー判事シリーズ」第一作、「さよならの接吻」のキャッチコピーだった。
私が作者を知ったのは、「図書館」シリーズからである。アメリカ南部ミステリが好き(オススメは「密造人の娘」シリーズ)な私としては、非常に楽しんで読み、また続刊を心待ちにしていた。しかし、第四作「図書館長の休暇」の終わり方には、(不覚にも)深く傷付き、それを癒す第五作が出ないことに苛立っていた。
そこへ現れた、新シリーズである。ほのぼの田舎町ミステリを匂わせるコピー、内容紹介……期待するなと自ら言い聞かせすらしなかった。私に限って言えば、期待するとたいてい失望する。「さよならの接吻」の感想は下記の通りである。

型破りなほどフレンドリーというが、なんだか単に服装がだらしないだけのような気がする。法廷でサンダルはどうかと思うぞ。「いい人」なのに女性に対して抜け目がないのもちょっと気に入らない。
サスペンスの作りは上々。結構コワイ。推理はさほど難物ではない。殺人鬼が誰なのかは途中で何となく見当が付くものの、それだと面白くないなあ……などと思ってしまったので、結末にも爽快感半減であった。まこと、読者が推理なぞするものではない。
続編も読むつもりだが、「図書館」シリーズほどは入れ込めないかもしれない。「休暇」が残した傷跡は、それほどまでに大きい。★★★☆☆

さて、続く本作の感想は……期待しなければ結構いける。
親のコネで判事に就職、フリーターから公務員に転職したホイット・モーズリー。カジュアルウェアが制服みたいなもので、仕事でFBIに会う時だってチノパン、サンダル、黄色地に蟹模様のシャツである。もう、意地になってるな。
電話占いサービスをやっている恋人もできたし、ひとまず仕事は安泰だし、と落ち着き始めたモーズリーの生活。しかし、資産家の友人にして恋人の伯父でもある老人が殺害され、田舎町に不穏なオーラが漂い始める。更に、死体と共に古びた錠前や掛け金、関連すると思われる場所からは古い貨幣が見付かる。すると、これはかつて南部を根城にしていた大海賊ジャン・ラフィートの隠した財宝を巡る事件なのではないか?という推理が出て来て……容疑者は土地を含む遺産受取人の恋人かもしれない!
一方、モーズリーの友人にして警官のクローディアは、休暇中に古い友人の家のクルーザーでくつろいでいたところを襲撃される。友人の兄が奪った海賊の宝を取り戻すため、彼らを人質に取るという。鮫がうようよいるメキシコ湾のど真ん中。逃げ出しても生きて岸にはたどり着けまい。警官とばれればすぐ殺される。しかし、開放される当てもない……傷付きながらも、生き残るために、彼女は襲撃犯との心理戦に挑むのだった。
警察、犯人、襲撃犯……町と海上、二つの場面で、やがて一つにまとまる犯罪がそれぞれに展開する。第一作同様、サスペンスの要素は上々。(ただしクローディア篇のみ。)主人公も方々の女性にうつつを抜かしていた前作とは異なり、かなり熱心に捜査している。海賊を巡る考察も興味深い。
それでも本作をあまり評価できないのは、好きな人物が少ないせいかもしれない。主人公の親友にして、釣り船「ドント・アスク号」船長にして、実際尋ねるべきではない副業を持つグーチ。離婚後も前夫と共に働く気苦労を抱えつつ(今回は特に)頑張るクローディア。この二人は非常に魅力的で、主人公も頼りにする友人たちである。しかし、その他のキャラクタは正直友達にはなりたくない。何かというとすぐにオーラがどうのと言い出すモーズリーの恋人。前科者の恋人といんちき芸術を作っては売るその従姉。別れた前妻を忘れられず、彼女の友人であるというだけでモーズリーを目の敵にするクローディアの前夫である保安官。そしてまた、とことん女を見る目のない主人公。鬱陶しい人博覧会場か、この町は。
そんな訳で、前作と同じ★★★☆☆。私も意地になって読み続けるのをやめるべきなのかもしれない。