猫にかまけて

猫にかまけて

猫にかまけて

町田康初体験が猫エッセイというのは、いいのか悪いのか。
ともあれ、マチダさんが独特の文体でぶつぶつと綴る「猫に振り回される日々」である。
内容が内容だけに、正当な評価ができているとは思わない。しかし、好きか嫌いかならば迷いはない。図書館で借りて読み、すぐにamazonで購入した。


いくら大芥川賞123回受賞者である大先生といえども、猫には敵わない。
というか、この大先生は一般人よりも「猫耐性」が弱い。
なにせ、「猫は人間より遥かに優れていて、神仏に近い存在であるようにみえてならない」とおっしゃる方である。(私は猫を「神様から特殊な任務を与えられた、特別設計の生き物」と思っているので、同じくらい耐性が低いかもしれない。)
そして、対する猫はかなりの強敵である。
柱に登り、壁に張り付き、犬っぽく猿っぽいゲンゾーは、時々いじけて部屋の隅で「あたたかいーひとのーなさけーもー」などと「みなしごのバラード」(タイガーマスクのエンディング・テーマ)を歌う。
また、二十歳を超えるココアは老いてなお偉そうで、雨が降ってはやませろと言い、新聞読めば目的の記事の上に座り、原稿書けばキーボードの上でじっくり読んで評論する硬派の女王様である。
そして、この二匹のみならず全世界の猫という猫にヨワイ作家が、本業そっちのけ、パンクバンドも練習早引けで猫にかまける様子が綿々と綴られる。
猫と共に暮らす人ならば、猫たちの奇行にうなずいたり笑ったり、そして彼らの幸福を願って心配したり涙したり……せわしなく揺れる感情に振り回されつつ本作を読むことだろう。
猫が未知の生物である人は、その個性の幅広さと情の豊かさに、やはり心動かされることだろう。
読み終えた私は、自宅にいる食あんこ綱ネコ科うららという生き物をとっつかまえてぎゅっとした。抱っこが嫌いな猫は、迷惑そうにしていた。喉を鳴らしながら。★★★★☆